ミンダナオでの爆破事件で300人が亡くなった(2001~2013年)

先週あたりからもう”ISIS”と呼ばれるようになったマウテグループ&アブサヤフによる南ラナオ州マラウィ市占拠事件(マラウィ危機)は3週間経ってもまだ収束していないが、そろそろ時間の問題といえるような状況になってきたそう。ただし一般人が捕らわれたままで餓死した人もできる模様ではある。

さて、今回は特に新しいニュースもないので、ミンダナオでのこれまでのテロについて振り返ってみる。直近で一番の被害者を出したのは2013年のMNLFミスアリ派による「サンボアンガ危機」でたしか民間人が200人近く亡くなったのではと思う。それ以外では同時期に起きた「ママサパノ」での警官44人が亡くなった事件が記憶に新しいが、ただしこれはテロではなく政治家が黒幕だった。

さて、爆破事件に関しては最新ではないものの、2001~2013年のミンダナオでの被害をまとめた英語記事がある。記事中の表を日本語にすると、

地域          事件数      死者数      負傷者
ソクサージェン    25 125 585
ARMM   15 81 349
サンボザンガ半島 10 48 336
ダバオ地方 6 52 315
北ミンダナオ 5 48 190

となる。地域名に私なりの若干の解説をすると、ジェネラルサントス(ジェンサン)等があるのがソクサージェン、ARMMは南ラナオ州などのイスラム自治区、サンボアンガ半島はサンボアンガ市に南北サンボアンガ州も加えたもの、ダバオ地方というのはダバオ市に南北ダバオ州を加えたもの、そして北ミンダナオはアグサンやスリガオ(サーフィンで有名)等があるところだと思われる。

この間、一番狙われていたのはジェネラルサントスだったのだが、実はダバオ市も空港で2002年に大きな爆発があり、さらに数か月後にも空港に隣接する「ササ」というエリアで爆発が起き計38名が亡くなっている。そんなわけで、去年のダバオ市でのテロは初めてということではない。

(英語記事)
http://www.rappler.com/nation/35493-mindanao-bombs-300-killed-12-years

最後に、以上を見るとサンボアンガは他と比べて目立って多いわけではないことがわかるが、これはあくまで爆発事件の話。サンボアンガ周辺では悪質な拉致の事件が後を絶たず、現在でも外国人を含む約30人が人質になっているとされる(本ブログ「アブサヤフが8歳の人質フィリピン人少年を解放」などを参照。

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マニラに出張で到着した日本人社長が、すぐに撃たれて亡くなった事件

デュテルテが就任してから9カ月。フィリピンの治安が良くなったようには到底思えない、またこんな事件。

「マニラで車に銃撃、愛知県の男性死亡 仕事で到着直後」2017年4月21日付
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170421-00000047-asahi-soci

フィリピンは、マニラがダントツに危ないです。マニラの中でも危ないエリアはわりと決まっていて、マニラ市をとりあえず避けておけばそれだけでかなり安全な旅ができます。もうひとつ言えば、ニノイアキノ国際空港の第一ターミナルも避けてほしい場所です。普通の国際線は第一ターミナルに到着してしまうのだけど、たしかANA、PALとセブパシフィック等は他のターミナルだったと思います。

クーリエジャポン「元イスラム武装勢力と「平和のソバ」を作る日本人を訪ねて」

今日はアブサヤフ関連でこそないが、ミンダナオ島中部を拠点にするイスラム過激派(だった?)MILFと日本人実業家の記事の紹介。

クーリエジャポンのウェブサイトに2017年3月16日付でアップされた
元イスラム武装勢力と「平和のソバ」を作る日本人を訪ねて
が興味深い。

MILFはまだ一部が国軍と衝突することもあるようだが、本体に関しては2015年のミンダナオ和平に関する合意の後、「バンサモロ自治政府」という新たな行政枠組みを作るべく政府と協議を始めている。というか、2016年にその基本法が策定される予定になっていたのが国会で承認されず、新たに作り直し始めたところ。

ミンダナオ和平に関しては日本政府がJICAを通じていろいろと支援をしていて、上の記事にも少し出ているが元兵士の雇用の保障も大いに気にかけたい部分だろうと思う。というのも、経済がダメだからゲリラに入る、ゲリラがいて危ないから投資ができない、新規投資がないから経済がますますダメになる、という負のスパイラルがミンダナオ中部では顕著だからだ。

その点、フィリピン初のミンダナオ島出身大統領であるデュテルテも力を入れているであろう分野で、これからダバオに日本からの直行便が就航したり外国投資を招いたりする上で、周辺地域の治安問題(イスラム過激派だけでなく共産ゲリラや一般犯罪も)は早急に対応が必要。特にダバオはつい最近テロが起きたばかりで、2年前にはすぐ向かいのサマル島リゾートでも外国人誘拐事件が起きたこともあり、いくら大統領のお膝元といえども全く気が抜けない(これらの事件については「ミンダナオ治安(テロ関連)」を参照。

ミンダナオ島は全体としてまだまだ未開発で、特に大部分ではフィリピンなのに台風の影響がほぼないという自然環境に恵まれた場所でもある。デュテルテが大統領の間にぜひ大きく前進させてほしいところだが、イスラム地域の政治はかなり厄介そうなので、いかに剛腕の大統領と言えどもどこまでやれるのか今後も注目して見ていきたい。

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マレーシアのサバ州からIS組織戦闘員をミンダナオに送る計画を摘発

去る1月23日、マレーシア当局は、ボルネオ島サバ州からフィリピン・ミンダナオ島にIS戦闘員を送り込む計画を発見したと発表した。
これは、1月13日と19日に行われた逮捕劇で、IS関連分子4名(フィリピン人男性(31)1名、バングラデシュ人男性(27,28)2名、マレーシア人女性(29)1名)を逮捕したことにより明らかになったという。このうちフィリピン人とマレーシアは、13日にクアラルンプール(KL)から飛行機でコタキナバルに到着したところを空港で逮捕されたという。一方、バングラデシュ人2名は19日にクアラルンプールで逮捕された。

(英語記事)
http://www.benarnews.org/english/news/malaysian/is-cell-01232017131917.html

送り出し先予定は、ミンダナオ島南ラナオ州のマラウィ市だったという。マレーシアのサバ州から、セレベス海を挟んだ向かい側にあるミンダナオ島まで、おそらく船で運ぶ計画だったのだろう。その界隈はアブサヤフが頻繁に海賊行為を行っていることでも知られている。

先の記事によれば、ミンダナオには、相互に関連しているISIS関連の組織が3つあるとされていて、文脈から私が判断するに、
Maute group
Ansar Khalia Philippines (AKP)
Al Harakat ul Islamiyah Basilan

と思われる。マレーシア、インドネシア、フィリピンのIS系テロ組織は中東とも連携して活動しており、2016年にはそれぞれのメンバーがyoutubeにも登場している。これらをまとめた英語記事が最近公開された。特にマウテグループの活動について詳しい。

(英語記事)
http://www.rappler.com/newsbreak/in-depth/159609-millennial-terrorism-isis-philippines

ここで登場したフィリピン人は、アンサル・カリファ・フィリピン(Ansar Khalia Philippines (AKP))メンバーのモハマド・レザ・キラムMohammad Reza Kiram(26)で、サンボアンガ市出身だという。

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アブサヤフが新たにインドネシア人3名を誘拐

つい先日にアブサヤフからフィリピン人2名が救出されたところなのに、実は同日にはインドネシア人3名が新たに誘拐されていた。場所は、マレーシアとフィリピンの間の海だという。

(英語記事)
http://www.thejakartapost.com/news/2017/01/20/three-indonesians-kidnapped-by-abu-sayyaf.html

先日のスター紙の記事に載っていた情報から計算すると、人質は今回のを合わせて以下となる。

オランダ人 1名
ドイツ人 1名
マレーシア人 5名
ベトナム人 6名
インドネシア人 7名
フィリピン人 6名

10月あたりに誘拐された韓国人船長が数えられていないのが気になるところだが、私の知らぬ間にもう解放されているのかもしれない。
また、何年も前に誘拐された日本人の伊藤はずっと前から数えられていないものの、アブサヤフと行動をともにしていると見られている。

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アブサヤフに誘拐されたフィリピン人2名を救出

1/19、フィリピン国軍がスールーでの作戦中、誘拐されていたフィリピン人2名を救出した。この2名は2016年10月26日にスールー沖で誘拐されていた。

(英語記事)
http://www.philstar.com/nation/2017/01/19/1664152/jtf-sulu-rescues-two-abu-sayyaf-hostages-indanan
http://www.rappler.com/nation/159013-abu-sayyaf-kidnap-victims-rescued-sulu

スター紙は上の記事の中で、残る人質は以下だと伝えている。

オランダ人 1名
ドイツ人 1名
マレーシア人 5名
ベトナム人 6名
インドネシア人 4名
フィリピン人 6名

10月あたりに誘拐された韓国人船長が数えられていないのが気になるところだが、私の知らぬ間にもう解放されているのかもしれない。
また、何年も前に誘拐された日本人の伊藤はずっと前から数えられていないものの、アブサヤフと行動をともにしていると見られている。

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サンボアンガ沖で漁民8名が海賊に殺された件

1月10日の早朝に、サンボアンガ市のラウド・シロモン島付近で海賊行為があり8人が殺された。事件は、15人が乗っていた漁船に2艘のスピードボードで海賊が襲ったもので、この海賊はアブサヤフと見られる。8名はいずれもフィリピン人で、サンボアンガ市内在住(ちなみにサンボアンガ市はフィリピンで3番目に広大な市である)。

助かった7人は海に飛び込み、泳いで近くの島に逃げることができた。

(英語記事)
http://www.philstar.com/headlines/2017/01/11/1661645/pirates-kill-8-fishermen-zamboanga
http://www.rappler.com/nation/157868-pirates-kill-boat-crew-zamboanga
http://newsinfo.inquirer.net/860972/8-zambo-fishermen-killed-in-attack

ラップラーの記事によれば、1月3日にも2艘のスピードボードで海賊が船を襲おうとしたが、通報を受けた海上警備隊によって阻止されていたという。ちなみにこの船はダバオからサンボアンガに行く途中だった。

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本ブログ内のアブサヤフ関連事件の記録はこちら→ ミンダナオ治安(テロ関連)

マウテグループから町役場を奪回、ミンダナオ南ラナオ州での戦闘

2013年頃からあるフィリピンのテロ組織で、MILFから分かれ現在はIS系として知られるアブドゥラ・マウテ率いる「マウテ・グループ」。去る10月には、ダバオでの爆発事件の容疑者3名が逮捕されたが、このマウテグループのメンバーだと発表されていた。報道を見る限り、この組織の拠点は南ラナオ州で、活動範囲はコタバトやサランガニあたりまで及ぶようだ。ざっくりと言って、中部ミンダナオは治安が悪い、と思っておけば間違いないだろう。

さて、今日はデュテルテ大統領がその南ラナオ州へ視察に訪れた。ブティグ町では町役場の建物を占拠したマウテグループとフィリピン国軍が戦闘を続けていたが、本日ようやく奪回した模様。とはいえ今日の時点ではまだ町から一掃できたわけではない。ちなみに町役場の建物は以前の戦闘の時に廃墟になって以来、役場としては使われていない。

(英語記事)
http://www.rappler.com/nation/154038-maute-main-force-leaves-lanao-town

上記記事によれば、今回の戦闘でのマウテグループ側の死者は49名、国軍側は死者なし。ちなみに今回派遣された国軍の部隊は2013年のサンボアンガ危機のときと同じエリート・チームだという。

ミンダナオでは長らくMNLF、MILFやアブサヤフといった組織が知られていたが、他にもBIFF(Bansamoro Islamic Freedom Fighters)やらJastice for Islamic Movemonetやら、そして最近はこのマウテグループ、それからアンサル・カリファ・フィリピン(AKP)、カリファ(KIM)などたくさんある。すべて、元をたどればアルカイーダと同根で、CIAが支援していたアフガン帰りのムジャヒディンの組織と言われている。

アブサヤフからの人質救出が続く

今年に入って誘拐された人の数は先日、アブサヤフによる誘拐2016で触れた。

さて、週末にノルウェー人男性が解放された後、さらに2件続けてアブサヤフからの救出が続いている。

まず、ノルウェー人解放の翌日9/18にインドネシア人3人が解放された。おそらく身代金が払われたのだろう。
http://www.gmanetwork.com/news/story/581832/news/regions/abu-sayyaf-releases-3-indonesian-hostages-to-mnlf-military-spokesman

続いて、別に拉致されたフィリピン人2人が解放された。これについても身代金が払われたと思われる。
http://cnnphilippines.com/news/2016/09/19/abu-sayyaf-asg-frees-releases-two-kidnap-victims-taruc-gonzales-afp.html

3件目は、今度は身代金は払われておらず、表現も「救出」になっている。今週の月曜日に拉致されたばかりの経営者であるフィリピン人老婆が、国軍に追われ転戦するアブサヤフの動きについて行ける体力がないと判断され、道に捨てられた模様。幸い、無事である。
http://www.sunstar.com.ph/zamboanga/local-news/2016/09/22/troops-rescue-woman-trader-abducted-abu-sayyaf-498976

と、ノルウェー人も合わせるとこの1週間に3件7人も助かった。これをどう解釈すべきだろうか。

注目したいのは、今回デュテルテ大統領は、これら(最後の救出を除く)の解放の実現はMNLF(モロ国民解放戦線)リーダーのヌル・ミスアリに負っている、と彼の顔を立てた。それだけでなく、ちょうど3年前にミスアリ派が起こしたサンボアンガ危機(注:現在では”Zamboanga Siege”(サンボアンガ包囲作戦)の名称が定着した)について「若手はミスアリのコントロール外」としてミスアリを擁護してもいる(ミスアリとミンダナオ和平の経緯についてはこちらを参照)。サンボアンガ市民はじめ一般国民にとっては、サンボアンガ危機の首謀者はミスアリ派リーダーであるミスアリなんだから、彼が逮捕を免れているのも受け入れられないことである。そのミスアリの汚名挽回をはかるというのは、デュテルテの政治的な作戦だと私には映る。

まぁそれはともかく、アブサヤフによる拉致については、専門的に情報収集しない限り、ニュースを拾っているだけでは詳しい情報がそろわないところ、この3件については被害者のことや拉致された場所について報道があるのでまとめてみたい。

1) インドネシア人の船員。2カ月前に拉致された、場所はマレーシア東ボルネオ海岸のLahad Datu。
2) フィリピン人の電気通信会社従業員。1カ月前に拉致された、場所はスールー州のPatikul
3) 中華系フィリピン人の経営者(ハードウェアの店)。2日前に北サンボアンガ州のSirawaiという、西海岸沿いの小さな町

先のノルウェー人を除けば、皆サンボアンガ周辺である。

アブサヤフによる誘拐2016

9/11にマレーシア人が3人行方不明になったので(参照今年に入ってからの誘拐は、オランダ人のカメラマンとサマル島で誘拐されたノルウェー人を含む30人になった。

(追記:この3人は、マレーシアの永住権を得ていて乗っていた船もマレーシア籍だが、マレーシア国籍ではないとのこと。どこの国籍かは不明。)

http://www.gmanetwork.com/news/story/576683/news/regions/abu-sayyaf-kidnaps-3-in-sulu

外国人では、インドネシア人やマレーシア人が多い。

記事タイトルには「アブサヤフ」と書いているが、彼らは自分たちがやったと声明を出すことが多いものの、実際には別の小さいグループが拉致をして、それをアブサヤフに売るなり引き渡すなりしている模様。サマル島での誘拐事件も、その疑いがある。が、真相はわからない。