買ってはいけないタガログ語の本

フィリピン人もわからないような単語がたくさん出てくる。

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おそらく単に古臭い単語が多い、ということだと思うが。

タガログ語は書き言葉の伝統があまりないので(主に話し言葉として使われるので)、日本語だと使いそうな語彙でもタガログ語では馴染まないものも多々ある。ようは、小難しい言葉は英単語を使ったり、文章まるごと英語で言ってしまったりするわけ。小難しい言葉を使う人たちは当然かなり英語ができる人たちだから。社会言語学ではこういう、ある社会における言語の力関係をダイグロシアといいます。

セブアノ語などの地方語は、さらに一段階下とみなされ、タガログ語よりも一段と書き言葉とその規則がないです。具体的には、タガログ語ならまだ学校の科目で「フィリピノ(フィリピン語)」があってテストもあるけど、地方語にはそれがない。基準となるものがないから、言葉の変化がすごく早いです。

最後に、個人的なアドバイスですが、単語の暗記よりはフレーズの暗記の方が効率的です。共起しやすい単語(たとえば「~語」+「話す」)を一緒に覚えておけば文法理解も進むし会話のときにスムーズに出てきやすいからです。この「共起」のことは、「コロケーション」とも言います。
おすすめはこのシリーズ(多言語で出てます)。

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タガログ語とセブアノ語の文法の違い

タガログ語の文法入門を作って3カ月弱で、ようやくビュー数が1000を超えました。「文法入門」ということでわりと硬派な内容ですが、大学の先生みたいな正確性に重きを置いたガチガチの教え方はしていません。

さて、タイトルの件、タガログ語とセブアノ語の文法的な違いについて。私はセブアノ語は会話レベルとは言えない程度なのですが、ダバオに1年ちょい滞在して観察した経験から大きな相違点を3つ挙げてみます。

と、その前に。基本的には、両者は文法的にかなりの程度似ています。ただしタガログ語だけを知っている人とセブアノ語だけを知っている人が話してもあまり理解し合えません。文法が似ていても語彙(ようするに単語)がかなり違うからです。

文法的な違いで目立つものは、タガログ語を基準にして言うと

1) セブアノ語には敬語がない
これはよく知られていることですが、タガログ語のときにはしょっちゅう耳にするpoやhoがセブアノ語には全くない。あと、タガログ語では目上の人にはkaではなくkayo、moではなくnyoまたはninyo、あるいはiyoではなくinyoを使うところ、セブアノ語では目上の人に対してもそれぞれkaやnimo、imoを使う(=単数形と同じ)。

2) セブアノ語には倒置詞の”ay”がない
タガログ語は特にフォーマルなスピーチなんかのときに、”ay”を使って語順を逆さまにすることが多い(たとえば、”Pilipino ako.”の代わりに”Ako ay pilipino.”と言うように)。一方、セブアノ語ではこの倒置詞というものがない。

3) セブアノ語にはタガログ語にはない小辞がある。
たとえば、タガログ語の「とても」にはnapaka-という接辞を使ったり、畳語(二回繰り返し)にしたりするが、セブアノ語ではkaayoという副詞のような小辞があり、文が全然違ってくる(フィリピン諸語の「小辞」について、詳しくは当ブログ「二番目ルール」を参照)。

セブアノ語の例) Oy, basa man kaayo ning t-shirt nimo, (ねぇ、この君のTシャツはびしょびしょじゃないか)
参考:上記の文のタガログ語での訳例)Basang basa na naman ang iyong T-shirt na ito.

(参考:セブアノ語の小辞とその順番については、当ブログ「セブアノ語とタガログ語の小辞の比較」を参照)。

4) セブアノ語では代名詞に省略形がある。
「私たち(自分たちだけ)」の”kami”が”mi”になったり、「私たち(相手を含む)」の”kita”が”ta”、「あなたたち」の”kamo”が”mo”とか、
指示代名詞ではkiniがni(意味は両方とも「これ」)、kanaがna(「それ」)とか、理屈は単純でも覚え慣れるまでは大変です。

5) “wala”の使える範囲が違う
タガログ語ではwalaは存在文の否定のときだけしか使われないのに対してセブアノ語では動詞の否定でもdiliとwalaを使い分けます。

と、こんな感じで他にも違うところがちょこちょこあり、ちゃんと習得するとなるとタガログ語を勉強した後でもそこまで容易ではないです。
動詞の活用も、仕方が違います。

最後に、文法ではなくて語彙について。フィリピン人がよく笑い話にするように、いくつかの単語は同じ発音なのに、タガログ語とセブアノ語で意味がまったく変わります。有名なのはmalibogですが、ほかにもあります。

ただ、単語をつないで会話をするだけならそんなに難しくありません。まともに話そうとする人は、セブアノ語は市販の教科書も少ないので自分で教科書を作るぐらいの意気込みでないときついと思います。逆に、それが楽しいと思える人なら習得は速いでしょう。

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セブアノ語とタガログ語の小辞の比較

言語変化について書いてある社会言語学の本などを読んでみると、ある単語の持つ意味がスライドするように変わることはよくあることだ、ということがわかる。同じ言語の中でも変化するし、それから隣同士の言語、たとえばスペイン語とポルトガル語の間で基礎的な語彙の意味が微妙に違うのを見れば、納得できる。

同様に、タガログ語とセブアノ語(ビサヤ語)の間にもそういった類の違いがみられる。特に、小辞について。

ようは、同じような働きをする同じ音の単語が別の意味を持っている、ということ。とても紛らわしいので、こういう違いがある言語は同時に勉強し始めない方がよいです。

さて、まだ検証中な部分もありますが、タガログ語とセブアノ語(ビサヤ語)の間での小辞の対応をまとめてみます。

小辞の対応表

もう 語気 ~か(疑問) まだ だけ である一方 そうだったのか(新情報) 本当に お願い だろうか ~だって
タガログ語 na na ba pa lang naman pala nga / kaya nga kaya daw, raw
セブアノ語 na ba ba pa ra man diay lagi / gani / gyud daw biya(bya) 接辞なし

とまぁ、こんな感じ。ちなみに、ここに出てくる小辞ではなく、リンカーや助詞扱い(これも小辞の一種)でタガログ語の”na”はビサヤ語で”nga”です。

(自分用メモ: sana = unta、 要検証 yata, tuloy)

 

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セブアノ語に出てくる3つの”kay”

ダバオに住みながらビサヤ語(セブアノ語)を勉強するという当初の計画。ダバオはタガログ語もよく使われているので、あらかじめタガログ語を覚えた自分としては好都合だ、と思っていた。実際には、ついタガログ語を使ってしまうのでなかなか上達しない。かつ、ダバオのタガログ語は底が浅いというか、マニラの方とは響きからして違う、言ってみれば2流。どっちつかずな感があります。

ともかく、それでも半年もいればなんとなく耳が慣れてくるし、たまにオンラインでセブ出身の人に習ったりもするとセブのビサヤ語との違いが気になってきたりもする。ここでも、ダバオのビサヤ語は底が浅いというか、本場セブのとは使われる語彙とか違うよう。

たとえば標題の”kay”に関しては、ダバオでは次の2つしか聞かない。
1) 名前に付ける”si”のsa形であるkay。
2) 理由を表す接続詞のkay。

セブの方ではさらにもうひとつkayがあるよう。すなわち、
3) kaayoの省略形であるkay。

上記のkayはひとつの文に同居することもある。
例: Kaligo ka didto, kay baho kay ka. あんたとっても臭いから水浴び(またはシャワー)しなさい。

ところでセブアノ語がタガログ語と文法的に違うなぁ、と思うのは「あんた」を表す”ka”の前にkaayoがつくという語順。タガログ語の”ka”は、どんな接辞よりも前にくるのに、セブアノ語ではけっこう後ろの方。私の推測では、セブアノ語の方がもともとの語順なのではないかと思う。というのは、タガログ語の”ka”と”mo”の接辞に対する位置は、他の代名詞の位置と違う例外的な処理が必要だから。ビコルやイロンゴ、カパンパンガンなどで例を集めて比較してみると答えにもうちょっと説得力が出てくる気がする。

というか、その前にもし現地の言語学の論文を探せばもっといろいろ見つかるんだろうな。

セブアノ語の文法2

どうやら「セブアノ語の文法」で検索してくる人がときどきいるらしいので、続編。

1) まず、「セブアノ語」という言語があるのか、という問題。
定義の問題にも似てくるが、「セブアノ語」というのはセブ島とその周辺(オランゴ諸島とか)で話されている言葉なんだろうな、という気がする。ダバオでは人は「セブアノ語」と呼ばず、ビサヤ(語)と呼ぶ。

ビサヤ語(またはビニサヤ語)の定義もまたいろいろありそうで、たとえばイロンゴ語(=ヒリガイノン語)に含めてビサヤ語だというフィリピン人もいる。俺に言わせればビサヤ「諸」語だと思うのだが。。

2) 文法
以上を踏まえてダバオでのビサヤ語について文法の重要なところをざっと書いてみると、

a) 動詞の焦点は、タガログ語と同様に大きく2つ。動詞活用のタイプは4つぐらいになるかな。
まず焦点の一つ目、行為者焦点としては、”mo-” ないし”ni-“ が接頭辞としてくる(それぞれ現在、過去)。 “mo-“の代わりとしての”mi-“は古いのか、使われるのを聞かない。さらに現在進行形として、”ga-“ないし”naga-“という接辞を使っている。タガログ語の影響だろうか。
よって、食べる”kaon”の活用だとこんな感じ。mokaon, nikaon, gakaon

次に、目的・方向焦点としては、接頭辞の”i-“のほかに、接尾辞の”-on”、”-an”がある。過去形のときは接頭辞”gi-“をつける。タガログ語みたいに挿入しないで済むので、ずっとシンプル。現在進行形は、どうやら”gina-“という接頭辞になる。
食べる”kaon”は、kaonon, gikaon, ginakaon とか。

b) 小辞の並びは、ra, na/pa, ba, man, (代名詞), gani/lagi/ bya, daw, kaayoの順。(追記:セブアノ語とタガログ語の小辞の比較について別に記事を起こしました(参照)
といったところか。あとは unta =sana とか。タガログ語で伝聞の”daw/raw”は、ビサヤ語でもそのまま”daw”のようだが、お願いを柔らかくいうときの”daw”と形が同じで紛らわしい気がする。あるいは、他の形があるのかもしれない(ダバオではビサヤ語にタガログ語も混ぜて話す傾向があり、見分けづらい)。

(ダバオで話されている、タガログ語とセブアノ語のミックスの参考例↓)
https://www.davaobase.com/2016/02/davao-dialect-what-does-the-word-gani-really-mean/

c) 言語の変わり方がすごいスピードで進んでいる
これは仮説ですが。年代によって、使う表現とかがずいぶん違うのではないかという気がしています。タガログ語も速いけど、ビサヤ語はもっと速い気がします。ヴァナキュラーな言語だから。出版された語彙集、辞書等を使う場合は、いちいち確認しながらじゃないと全然通じない可能性もありますので注意が必要です。

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セブアノ語の文法

セブアノ語は地方によって少しだけバリエーションというか幅があって、さらに言えばタガログ語と同じように、世代間でかなり言い回しとか語いに差がある。これらは書記言語としての機能があまりない言葉(=話し言葉用の言語)の特徴だと思う。

いろんな変種があるセブアノ語で教科書的なものを用意するのは難しいのだが、あるにはある。問題は、信ぴょう性というか、本に載っている単語が実際に「今」使われているかとなるとあやしいところだ。

少しだけ、教科書に載っていてもほぼ日常会話で出てこない例をあげよう。

1. “hain”と”diin”
セブアノ語で「どこ」というのを言いたいとき、”asa”,”hain, “diin”の3種類あるが、実際の会話では”asa”しか使わない。なお、使い方の区別はこんな感じ。

ASA ka paingon? DIIN ka gikan? HAIN ka karon?

出典:http://standardbisaya.blogspot.com/2009/10/ang-mga-pulong-asa-hain-ug-diin.html

 

2. “duna”
セブアノ語には「ある、いる」を表すのに”naa”と”duna”があるが、出てくる頻度は”naa”の方が圧倒的に多い。

 

とまあ、こんな感じで辞書とかに載っていても古臭くなってしまっている場合がかなりあるので、学習するときには実際に耳にした単語を片っ端からメモして覚えていく、というのがセブアノ語に関しては正しい学習法のように思われる。

 

ただ、先達が残した資料が無意味かというと、もちろんそんなわけはなく、かなり参考になる。たとえば市販のものでは、ちょっと古いけどこれ。私も著者のお二方には、それぞれマニラと東京でお世話になりました。

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先に言っておきますと、本書には文法解説は一切ないです、あしからず。

 

一方、ウェブ上では、英語資料を中心にそこそこたくさん語彙集もあります。探してみてください。

こちらは動詞の活用の簡単な解説↓
http://www.cebuwatch.com/cebuano-dialect/common-verbs.html

こちらはウィキペディア。焦点別の動詞の種類が載ってます↓
http://en.wikipedia.org/wiki/Cebuano_language#Forms

 

次に、日本語では最近は「俺のセブ留学」のサイトでも日本語で出版された語彙集の丸写しが見られるようになっています。

テキスト的なものも、いくつか見つかりました。

英語が全然わからなくても使える文法解説はこちら↓

http://www5e.biglobe.ne.jp/~bisaya/

これだけでもしっかり勉強すれば、あとはフィリピン人とスカイプレッスンしていくだけでマスターできそう。

↓こちらはもっと教本っぽい形式。英語がちょっとわかればリスニングのyoutubeも使える。勉強が楽しそうなのはこっち。

サンプル(勉強方法)

 

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セブアノ語の文法2

セブアノ語とタガログ語の小辞の比較

セブアノ語に出てくる3つの”kay”

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