マニラで、アブサヤフの元リーダー格が脱獄を試みて殺害された件

去る10月9日の早朝、メトロマニラのケソン市にあるキャンプ・クラメに収監されていたアブサヤフの元リーダー格、通称Indang Susukanと、同じくテロリスト(ダウラー・イスラミヤのメンバーとみられる)2名が脱獄を試みたが失敗し、3人とも殺害された。

この事件、3人は朝食を運びに来た看守をめった刺しにし、施設内を逃走し始めたが、先に2名が射殺され、残った1名はたまたま同施設に収監されている元上院議員レイラ・デ・リマを人質にとったためにフィリピンでは一面を飾るニュースとなった。その1名も結局射殺され、元上院議員は無傷だったそう。

なお、Indang Susukanは身代金目的の複数の拉致事件を率いたとして服役中だった。彼は2020年にダバオ市で身柄を拘束されたが、その前に国軍との戦闘で片腕を失い、先にMNLFのヌル・ミスアリ(2013年のサンボアンガ危機の首謀者)のもとに身をゆだねていたとのこと。

参考記事(英語)↓

https://www.asahi.com/ajw/articles/14738797

https://news.tv5.com.ph/national/read/crame-incident-police-kill-three-men-who-tried-to-escape-hold-ex-senator-hostage

アブサヤフの幹部がバシラン州で殺害された件

去る3月26日に、アブサヤフのバシラン州におけるサブ・リーダーの一人、ラズミル・「アブ・クバイブ」・ジャンナトゥル(Razmil “Abu Khubayb” Jannatul)とみられる幹部が、バシラン州スミシプ(Sumisip)町での国軍の作戦によって殺害された。

(参考:英語記事↓)

https://www.pna.gov.ph/articles/1170713

同記事によれば、国軍は一方で、別のサブ・リーダーであるバサロン・アロク(Basaron Arok)の一味とのスールーでの戦闘の後、武器などを回収したとのこと。

2021年11月までのアブサヤフ関連のニュースまとめ

なかなかニュースを確認できていない日々で、かつ本ブログの更新もほとんどしていないため本ブログでここ数年ウォッチしてきたアブサヤフ関連のニュースも今年は更新できていなかった。せっかくこれまで記録してきて、ここで挫折してはもったいないので、主要な出来事を網羅できるかわからないが、2021年の出来事についてさっと調べた結果を以下に時系列にまとめておきたい。

2021年2月

サンボアンガ市内でアブサヤフ幹部が警察に殺害された。

(参考ニュース記事(英語)↓)

https://www.manilatimes.net/2021/02/03/news/regions/abu-sayyaf-subleader-killed-in-zamboanga-clash/836237/

スールーで、自爆テロを準備していた女性9人が逮捕された。

(参考ニュース記事(英語)↓)

https://www.aljazeera.com/news/2021/2/23/nine-suspected-female-suicide-bombers-arrested-in-sulu

2021年3月

タウィタウィで、アブサヤフ幹部が国軍に殺害され、同時に2020年1月に拉致されたインドネシア人人質4人が救出された。

(参考ニュース記事(英語)↓)

https://www.dw.com/en/philippine-troops-kill-leader-of-abu-sayyaf/a-56945352

2021年5月

マレーシアのボルネオ島でマレーシア警察がメンバー5人を殺害

(参考ニュース記事↓)

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65359

2021年7月

バシラン州での投降者が2021年から数えて21人になった。

(参考ニュース記事(英語)↓)

https://www.pna.gov.ph/articles/1147639

2021年9月

(参考ニュース記事(英語)↓)

ケソン市内で、NBIがアブサヤフ幹部を逮捕した。

https://www.manilatimes.net/2021/09/15/news/nbi-nabs-abu-sayyaf-member-in-quezon-city/1814830

2021年10月

サンボアンガ市内で、2015年に起きたサマル島での拉致事件の誘拐犯が逮捕された。

(参考ニュース記事(英語)↓)

https://www.philstar.com/nation/2021/10/16/2134620/abu-sayyaf-member-involved-samal-island-kidnapping-nabbed-zambo

今日は、ここまで。

B06XRSQY5W
[音声DL付] 日本人が知らないイギリス英語入門 ~アメリカ英語と比較しながら、基本から文化背景までわかる!~ (impress QuickBooks)
B07G8141BJ
[音声DL付] 日本人が知らないイギリス英語 (2) ~住宅事情から恋愛まで、イギリスの日常で使われるフレーズを豊富に収録!~ (impress QuickBooks)

サンボアンガ市内でアブサヤフ幹部など4名が逮捕された件

去る10月11日と12日に、2009年の人質拉致および殺害事件に関与したとして指名手配中だったHassan Anang Mohammadほか3名がサンボアンガ市内で逮捕された。

参考英語記事↓

https://www.cnn.ph/regional/2020/10/12/Abu-Sayyaf-members-Zamboanga-City.html

現場はサンボアンガ市内のキャンプ・イスラム近くにあるLower Calarianというバランガイ。逮捕されたうちの一人は現役の港湾警備隊員ということで、やはり当局に協力者がいることでテロリストがサンボアンガ市内に入れるようになっているようだ。

ところで、先週はアブサヤフ関連で言えば、バシラン州にある刑務所から受刑者が8名脱走した事件があり、その中にアブサヤフのメンバーもいたとのこと。

参考英語記事↓

アブサヤフのメンバーであり受刑者のLahamanという男性が、受刑者なのになぜか銃を持っており、それを使って警備員を殺害し正面ゲートから逃走したという。

その後、1名は警察によって殺害され、もう1名は負傷させ身柄を確保した。しかしながら、14日の時点で6名は逃走中とのこと。

実は(少なくともこの地方での)脱走事件はそう珍しくなく、ちょっと検索しただけでも2件は記事は出てきた。せっかく捕まえても逃げられてしまうのであればアブサヤフ解体はそりゃこれまで難しかったわけだ、と思ってしまった。

https://www.voanews.com/east-asia/abu-sayyaf-suspected-philippines-abductions-jailbreak

スールーでインドネシア人自爆テロ容疑者が逮捕された件

去る10月10日に、サンボアンガ市で自爆テロをする予定だったとされるインドネシア人「チチ」ことRezky “Cici” Fantasya Rullieがスールーで当局に逮捕された。彼女の親は2019年1月にスールーの教会を爆破した実行犯で、彼女の夫は去る8月にやはりスールーで国軍に殺害されていた。国軍に殺害されたアブサヤフのメンバーの妻が自爆テロの実行犯になるのは今年8月にスールーのホロで起きた自爆テロ(参考:英語版wikipediaのリンク)と同じパターンだ。なお、今回逮捕されたのは上述のチチ(妊娠中)の他に未亡人が2人いたそう。

(↓参考:英語記事)

https://mainichi.jp/english/articles/20201010/p2g/00m/0in/076000c

https://www.aljazeera.com/news/2020/10/10/philippines-arrests-woman-suspected-of-planning-suicide-attack

北サンボアンガ州でアブサヤフに拉致された比系アメリカ人が救出された

去る9月16日に北サンボアンガ州のシラワイ町でバイクに乗っているところをアブサヤフに拉致された比系アメリカ人の男性が、10月1日に国軍によって救出された。

(参考英語記事↓)

https://www.channelnewsasia.com/news/asia/philippines-military-rescue-man-abu-sayyaf-militants-13171504

2001年のアブサヤフによる、パラワンのリゾートを襲った拉致事件とその後

アメリカで2001年の同時多発テロ事件が起こる数か月前、フィリピンのパラワン島にあるドス・パルマス・リゾートをアブサヤフが襲撃し、アメリカ人3名と、20名弱のフィリピン人を拉致してバシラン島に引き上げていった。当時、アブサヤフは既に拉致事件を何度か起こしていたが、アメリカ人が人質にとられた上にその後911が起きたので、オサマ・ビン・ラディンとつながりのあるアブサヤフによるこの事件は国際的な注目を集めたようだ。

(参考:アブサヤフの起こした拉致事件や爆破事件などのサマリー↓(英語記事))
https://www.gmanetwork.com/news/news/content/154797/abu-sayyaf-kidnappings-bombings-and-other-attacks/story/

さて、人質になった3名のアメリカ人の中には生き残った方が1人だけいて、アメリカに戻った後に手記を出版し、かなり反響があったようだ。その後、フィリピンの監督によって2013年に映画化されている。本は日本語へ翻訳されていないようだが、映画の方は字幕あり。

“In the presense of My Enemies” Gracia Burnham with Dean Merrill (2003)

In the Presence of My Enemies (English Edition)
Burnham, Gracia(著), Merrill, Dean(寄稿)
Tyndale Momentum (2012-02-24T00:00:00.000Z)
5つ星のうち4.8
¥1,739

「囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件」(2013)

囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件 [DVD]
イザベル・ユペール(出演), ラスティカ・カルピオ(出演), キャスリーン・ムルヴィル(出演), マーク・ザネッタ(出演), ティモシー・マバロット(出演), ブリランテ・メンドーサ(監督)
アミューズソフトエンタテインメント (2013-12-20T00:00:01Z)
5つ星のうち4.2
¥2,500 (中古品)

たまたま拉致されたこのアメリカ人は、キリスト教(プロテスタント)の布教組織のメンバーで、書籍のタイトル自体も聖書の中の一説らしい。書籍では、一年超に及ぶバシラン島の山中をさまよいながらの人質生活の様子やアブサヤフがどんな人たちだったかを記しただけでなく、キリスト教徒としての内面の話が多い。全体として良書だと思う。

アブサヤフについての著者の話はもちろん、救出されたところで終わってしまうが、その後の顛末をネットで追ってみると、アブサヤフのリーダー格はその後の数年以内に掃討作戦で殺害あるいは逮捕された模様。そして逮捕された者については当然裁判となるわけだが、公判中にフィリピンでは死刑が廃止され、最高刑が終身刑になってしまったらしい。そういうわけで、2011年に最高裁で終身刑が確定した。ちなみに地裁の判決は2004年、高裁(控訴裁判所)の判決は2008年に出たという。

(参考:最高裁判決↓(英語記事))

Supreme Court affirms life terms on Abu Sayyaf members

(追記:この事件については、ネットフリックスの”Captive”シリーズで2016年から公開されているドキュメンタリーもある)

スールーでは国軍によるアブサヤフの掃討作戦が続く

今回は拉致事件ではないですが。

去る2020年4月23日、スールー州のパティクルで国軍がアブサヤフと衝突し、この時点でアブサヤフ側は6名が死亡、一方で国軍には死亡者は出なかった。

参考、英語記事↓
https://www.gmanetwork.com/news/news/regions/735283/6-abu-sayyaf-bandits-dead-8-soldiers-hurt-in-patikul-clash-military/story/

これに先立ち、18日には現在のアブサヤフのリーダー格の一人であるサヒロンの、孫が死亡した模様。
https://www.gmanetwork.com/news/news/regions/734648/soldiers-killed-kin-of-abu-sayyaf-group-leader-sahiron-military/story/

さらにその前日の4月17日には、スールー州のパティクルで国軍がアブサヤフと衝突し、この時点でアブサヤフ側は3名が死亡、一方で国軍は11名が死亡した。
https://www.rappler.com/nation/258293-soldiers-killed-wounded-sulu-clash-abu-sayyaf-april-17-2020

このように現在は主にスールー州で作戦が続いている。サンボアンガ市から見てひとつ手前のバシラン州は既にしばらく前から制圧されているようで、治安も良くなっていると思われる。

ところで、新型コロナウイルスに関してはサンボアンガ市ではこれまで10名そこらしか陽性が確認されておらず、かつそのうちの2名は死亡している。今日の時点では5月以降GCQ(一般コミュニティ検疫)となる予定。ただし市長はECQ(強化されたコミュニティ検疫)の延長を求めているよう。

サンボアンガ・デル・スル州でイギリス人とフィリピン人妻が拉致された件

数日前のことになるが、10月4日夕方に、サンボアンガ・デル・スル州のトゥクランという町で、当地でリゾートを経営する70代のイギリス人とフィリピン人妻が何者かによって拉致された。4人の男が拳銃を突き付け、ボートで待機していた2人と合流し海に去って行ったという。

(英語参考記事↓)
https://www.rappler.com/nation/241785-gunmen-abduct-couple-zamboanga-del-sur

おそらくISIS系のテロリストの仕業ではないかと思われるが、現在まで犯行声明は出ていないという。おそらく、実行犯が身柄をアブサヤフ等に引き渡し、そこから身代金交渉が始まるのではないだろうか。

ところでアブサヤフのニュースは最近あまり聞かなくなったが、同10月4日にはアブサヤフのサブリーダー格が、ケソン市に潜伏していたところを逮捕された。

(英語参考記事↓)
http://www.manilastandard.net/news/national/306638/abu-sayyaf-sub-leader-arrested-in-quezon-city.html

この記事を読むと、彼はアジャン・アジャン(Ajang-ajang)というサブグループの所属だったことがわかる(アブサヤフは、ひとつのグループというより緩やかなネットワーク)。記事では、はじめはサンボアンガ市にいた際に月1万ペソの報酬を約束されて参加した、とあり、やはりこのような若者がリクルートされていくのは地方の貧困が背景にあるように思われる。

後日追記:
この二人は同年11月25日に救助された。
(英語参考記事↓ なお、この記事ではTukuranがZamboanga del Norteの南にある、と書かれているがZamboanga del Surの間違いである)
https://www.aljazeera.com/news/2019/11/philippine-troops-rescue-couple-kidnapped-abu-sayyaf-191125032516299.html

それはそうと、この夫妻、実はリゾートだけではなく小さな大学も経営していた。手作り感あふれるウェブサイト、ある意味すごい↓
https://hyronscollege.page.tl/
フィリピンでは、広報ツールとしてはウェブサイトよりはフェイスブックの方が重要なんだろう↓
https://www.facebook.com/pages/Hyrons-College-Philippines-Tukuran-Zamboanga-Del-Sur/869426599750647

日本/フィリピン歴史対話の試み: グローバル化時代のなかで
永野 善子
御茶の水書房
売り上げランキング: 1,820,873

アブサヤフに人質にとられていたオランダ人が死亡した件ほか

アブサヤフ掃討の軍事作戦が続いているスールーで、作戦中の去る5月31日にオランダ人の人質、Ewold Horn氏(59)が死亡したことが発表された(参考英語記事)。
彼は2012年に、バードウォッチングのためにフィリピン人ガイド(Ivan Sarenas氏)とスイス人(Lorenzo Vinciguerra氏)とタウィタウィを訪れていたところを拉致された。その際、フィリピン人ガイドは逃げることができ、またスイス人の方は2014年に脱出していた。

なお、それに先立つ今年4月には、人質のインドネシア人1名が脱出した。しかし、一緒に逃げようとしたもう一人のインドネシア人は溺死し、また別に逃げ出したマレーシア人1名は撃たれてしまった。
https://www.voanews.com/a/philippines-abu-sayyaf-hostage-escapes/4864513.html

この記事ではまだあと2人フィリピン人の人質がいる、とされている。

また、5月25日にはスールー州ホロ島パティクル(Patikul)で,アブサヤフの武装集団約30人が地元のコミュニティを襲撃し,子供2人が死亡,住民3人が負傷。その後,応戦した国軍との銃撃戦でASGメンバー6人が死亡,兵士3人及びASGメンバー7人が負傷した。

アメリカに喧嘩を売る国 フィリピン大統領ロドリゴ・ドゥテルテの政治手腕
古谷 経衡
ベストセラーズ
売り上げランキング: 163,649
日本/フィリピン歴史対話の試み: グローバル化時代のなかで
永野 善子
御茶の水書房
売り上げランキング: 1,820,873