タガログ語の文法入門を作って3カ月弱で、ようやくビュー数が1000を超えました。「文法入門」ということでわりと硬派な内容ですが、大学の先生みたいな正確性に重きを置いたガチガチの教え方はしていません。
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さて、タイトルの件、タガログ語とセブアノ語の文法的な違いについて。私はセブアノ語は会話レベルとは言えない程度なのですが、ダバオに1年ちょい滞在して観察した経験から大きな相違点を3つ挙げてみます。
と、その前に。基本的には、両者は文法的にかなりの程度似ています。ただしタガログ語だけを知っている人とセブアノ語だけを知っている人が話してもあまり理解し合えません。文法が似ていても語彙(ようするに単語)がかなり違うからです。
文法的な違いで目立つものは、タガログ語を基準にして言うと
1) セブアノ語には敬語がない
これはよく知られていることですが、タガログ語のときにはしょっちゅう耳にするpoやhoがセブアノ語には全くない。あと、タガログ語では目上の人にはkaではなくkayo、moではなくnyoまたはninyo、あるいはiyoではなくinyoを使うところ、セブアノ語では目上の人に対してもそれぞれkaやnimo、imoを使う(=単数形と同じ)。
2) セブアノ語には倒置詞の”ay”がない
タガログ語は特にフォーマルなスピーチなんかのときに、”ay”を使って語順を逆さまにすることが多い(たとえば、”Pilipino ako.”の代わりに”Ako ay pilipino.”と言うように)。一方、セブアノ語ではこの倒置詞というものがない。
3) セブアノ語にはタガログ語にはない小辞がある。
たとえば、タガログ語の「とても」にはnapaka-という接辞を使ったり、畳語(二回繰り返し)にしたりするが、セブアノ語ではkaayoという副詞のような小辞があり、文が全然違ってくる(フィリピン諸語の「小辞」について、詳しくは当ブログ「二番目ルール 」を参照)。
セブアノ語の例) Oy, basa man kaayo ning t-shirt nimo, (ねぇ、この君のTシャツはびしょびしょじゃないか)
参考:上記の文のタガログ語での訳例)Basang basa na naman ang iyong T-shirt na ito.
(参考:セブアノ語の小辞とその順番については、当ブログ「セブアノ語とタガログ語の小辞の比較 」を参照)。
4) セブアノ語では代名詞に省略形がある。
「私たち(自分たちだけ)」の”kami”が”mi”になったり、「私たち(相手を含む)」の”kita”が”ta”、「あなたたち」の”kamo”が”mo”とか、
指示代名詞ではkiniがni(意味は両方とも「これ」)、kanaがna(「それ」)とか、理屈は単純でも覚え慣れるまでは大変です。
5) “wala”の使える範囲が違う
タガログ語ではwalaは存在文の否定のときだけしか使われないのに対してセブアノ語では動詞の否定でもdiliとwalaを使い分けます。
と、こんな感じで他にも違うところがちょこちょこあり、ちゃんと習得するとなるとタガログ語を勉強した後でもそこまで容易ではないです。
動詞の活用も、仕方が違います。
最後に、文法ではなくて語彙について。フィリピン人がよく笑い話にするように、いくつかの単語は同じ発音なのに、タガログ語とセブアノ語で意味がまったく変わります。有名なのはmalibogですが、ほかにもあります。
ただ、単語をつないで会話をするだけならそんなに難しくありません。まともに話そうとする人は、セブアノ語は市販の教科書も少ないので自分で教科書を作るぐらいの意気込みでないときついと思います。逆に、それが楽しいと思える人なら習得は速いでしょう。
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