マラウィ危機のその後2(アップデート)

5月に発生したマウテグループなど(現在はISISと呼ばれている)によるマラウィ占拠事件は、残る戦闘現場はサッカーコート3つ分、ようやっと最後の一押しというところだが人質が40数人いるため思い切った作戦ができない状態という。ただ、兵糧攻めをする場合、先に人質が飢え死にしてしまうのは目に見えている。一挙に解決というのは難しいようだ。

(追記:10/4に、上述の人質のうち少なくとも17名が救出された↓
https://www.rappler.com/nation/184223-marawi-hostages-rescued

下の英語記事によれば、9月30日時点の死亡者数は、政府側が155人、民間人が47人、テロリストが749人となっている。
https://www.rappler.com/nation/183849-marawi-death-toll-september-30

テロリストの武器は兵器の他、即席爆弾(または即席爆発装置) =Improvised Explosive Device, IEDと呼ばれる簡易手製爆弾を使っており、今回押収されたものの写真などもメディアに出回っている。中には、1ペソ硬貨を使ったものなどもある。こういったテクノロジーはネットワークを通じて国際的に技術移転されているわけだが、それだけの能力があるんだったらもっと建設的な方向に使っていってれば、今頃ミンダナオはもっと発展しているだろうにと思う。

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フィリピンを乗っ取った男

決して新しいストーリーではないのだが、一部とはいえ「戒厳令(martial law)」下の現在のフィリピンを理解する上で非常に良いと思った本。最近ようやく読んだのでここにメモしておく。マルコス政権でいわゆる「クローニー」として巨万の富を築き上げたダンディン・コファンコことエドゥアルド・コファンコ・ジュニア(Eduardo Cojuangco Jr.の物語。ちなみに、彼は現在もサンミゲルの会長であり、毎年フォーブス誌のアジアの富豪ランキングにも登場している。

そもそもマルコス時代になんで戒厳令になったのか、それを国民がどう受け入れ、そして戒厳令下で結局は何が起こったのか。今ミンダナオに敷かれている戒厳令とその意味を読み解く上でも非常に参考になった。

「フィリピンを乗っ取った男」 アール・パレーニョ(2005)

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一番のポイントは、ダンディン・コファンコがコラソン・アキノ(旧姓コファンコ)のいとこで、ノイノイ・アキノ前大統領のおじだということ。なので暗殺されたベニグノ・アキノと対立するはずのダンディン・コファンコは、結局は身内なのである。本書では、マルコス時代にタルラックでの地方選挙でダンディン・コファンコとベニグノ・アキノが交渉し、お互いに政治家としての地位を築いていった部分も描かれている。

そして、アキノ政権下で一時国外逃亡していたダンディン・コファンコはこっそり帰国し、差し押さえられていた持ち分を裁判で勝ち取りサンミゲルを再び手中に収める。マルコス時代のココナツ課徴金をめぐる裁判はずるずると引き延ばす作戦をとり、これはつい最近まで続いていた。
(英語記事)
http://newsinfo.inquirer.net/733742/sandiganbayan-thumbs-down-partial-judgement-on-coco-levy-case

こういった歴史を学んでいくと、フィリピンの政治がちょっとわかるようになってきて嬉しい。特に、なぜボンボン・マルコスの人気があるのかというのは、外国人にはちょっと理解できないことだから。

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強面デュテルテ大統領が売人を殺しまくるゲームアプリ

「三ヶ月以内に麻薬を国内から一掃できなければ私を殺すがいい」と、就任時にフカしたドゥテルテ大統領。一掃キャンペーンはすぐに半年に延長されたものの、その期限も年末に来てしまいます。今後の展開やいかに。

ところで、携帯アプリではハードボイルドな大統領が薬の売人を殺しまくるゲームがたくさんあり、かなり人気のよう(もちろん無料アプリ)。参考までに下に検索画像をつけてみました。アプリストアでの検索ワードは、”Duterte”です。

三番目などは、私にはジャイアンにしか見えませんが。。ともかく比国内での人気のほどは察していただけると思います。

デュテルテ

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デュテルテが、サバ州の不法就労フィリピン人7000名の強制送還に合意

今回はアブサヤフ関連ではないけれど、すぐ近くの話題。

一週間前のニュースになるが、デュテルテ大統領がマレーシア政府とサバ州の不法就労フィリピン人7000名の強制送還で合意した、と報じられた。

Philippines, Malaysia To Deport 7,000 Illegal Pinoys From Sabah

http://www.gmanetwork.com/news/story/588420/news/pinoyabroad/duterte-confirms-deal-reached-for-deportation-of-7-000-illegal-pinoys-in-malaysia

サバ州の不法就労フィリピン人は昔からたくさんいて、ボートでフィリピンのスール―諸島の方からやってきては送還され、というのを繰り返しているとされる。

一方、マレーシアの合法外国人労働者はアジ研のレポート「マレーシアの外国人動労者」によれば、2013年時点で211万人、そのうちの約半数がインドネシア人であり、フィリピン人はトップ5にも入っていない。

上記レポート内には、不法就労者に関して興味深い記述があるので引用したい。

直近では、2011年10月から2014年1月まで違法労働者の恩赦・合法化プログラム(通称6Pプログラム)が実施され、130万人が申請、うち50万人が合法化され、33万人が国外退去となった。

そういうわけなので、今回デュテルテが合意した7000人は、このプログラム以降も不法就労となっていた者ということになる。どうせ送還されてもまた戻ってくるのだろう。

アップデート:2800人突破、デュテルテ大統領になってからの麻薬関係死者

先月「デュテルテが大統領になってからの麻薬関係死者が1800人を突破」を備忘録として書いたが、9月に入っても勢いはとどまるところを知らず、国家警察による、ショットガンの名前を模した「ダブルバレル」プログラムにおける9月4日の時点で既に2800人を超えていたという記事を発見。

http://www.finlandtimes.fi/worldwide/2016/09/04/29851/More-than-2,800-killed-in-drug-operations-in-Philippines

現在フィリピンでは、麻薬関係の中国人がしょっちゅう捕まっているほか、報復等で警官が暗殺されたり、さらにはときどき幼児が巻き添えを食って殺されたりもしている。ビビッて出頭する下っ端関係者も数十万人と多い中、リハビリプログラムのために収容する場所の確保に一生懸命だ。

素朴な疑問だが、万一彼らが更生したとして、数十万人に非正規でも雇用を与えられるような力が政府にあるのだろうか。というのも、ただでさえ失業率が高いのに加えて、フィリピンではしばらく前からのサウジアラビア不況による構造改革の影響を受け、出稼ぎに行っていた肉体労働者も続々戻ってきており、麻薬関係者の多くを占める成人男性層とバッティングしている。

ひとつだけ考えられる好材料は、今年から2年間はジュニアハイを新しく出た若者をシニアハイに助成金付きで接続するプログラムがあるので、ハイスクールを出たばかりで失業する人は少なめなのではなかろうか。それに伴い、同程度の非熟練度の若者は競合が増えることなく職探しができるモラトリアムのような感じになっていくと思われる。

ダバオ市内でアブサヤフによる爆発事件

9月2日の夜にダバオ市内で爆発事件が起きた。大統領が滞在していたところをわざと狙ったようだ。犯行現場は低所得層しか利用しないような露店のあるところだが、アテネオ・デ・ダバオ大学の近くで、ダバオ市内一級のマルコポーロホテルもすぐ近くにある。

http://www.cnn.co.jp/world/35088484.html
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016090300023&g=int

犯行声明を出したアブサヤフは、現在拠点のあるホロ島で国軍と対峙しており、前日は大統領はサンボアンガを訪れ、つい数日前に戦死した兵士の家族を見舞ったところ。この兵士が殺された後、テロリストが彼の携帯電話を使って「こいつの首をちょん切ってやったぜ」というショートメールを家族に送ったという。

大統領はまもなく大規模掃討作戦として7000人規模の国軍を投入する予定。

デュテルテが大統領になってからの麻薬関係死者が1800人を突破

大宅壮一ノンフィクション賞も受賞した作家でもあるマニラ新聞の記者、水谷竹秀がブロゴスに寄稿した記事(参照)によれば、新大統領就任1カ月にして麻薬関係死者が400人以上、とある。

ところが、その数週間後に出た下の英語記事をみると、約1800人となっている。
http://gulfnews.com/news/asia/philippines/philippines-drug-war-death-toll-at-1-800-1.1883476

下の日本語のロイター記事はどうやら誤訳で、1067件というのは約1800-712 =1067。警官に射殺された人数が400から712になっているだけでもかなりのスピードなのに、その上に「関連」すると言われる殺害件数がその倍以上あるという。

http://blogos.com/article/187932/

そのすべてが必ずしも本当に関連でないのは、フィリピンだから当然だろう。