今回のニュースはさすがに大きい扱いで、日本のメディアでもとりあげられている。昨夜5月24日にミンダナオ全域に戒厳令(マーシャルロー)が宣言された件だ。
(記事)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM24H2Q_U7A520C1EAF000/
http://www.news24.jp/articles/2017/05/24/10362341.html
https://www.cnn.co.jp/world/35101640.html
直接の引き金になったのは、本ブログでも昨日「フィリピン・ミンダナオ島マラウィ市でマウテグループと当局が交戦中」に書いた通り、テロ組織と当局が市街で衝突したことだ(ISISに忠誠を誓うフィリピンのテロ組織「マウテグループ」についてはこちらを参照)。伏線としては、これも本ブログで少し前に「ボホールに侵入したサブサヤフの最後の一人も殺害完了」 等で書いてきたが、4月にセブから近い観光地であるボホール島にテロ組織アブサヤフの構成員が侵入した件、さらに今年から当局がまた別のテロ組織”BIFF”に対してミンダナオ島南ラナオ州で展開している作戦で、爆撃を行っていることなどなどがある(参照:「ミンダナオではBIFFと国軍との戦闘によって2万4千人以上が避難している件」)。
ちなみに今回の掃討作戦の方は、収束したというニュースは今のところない。最新のレポートでは、国軍兵士が5名死亡、テロ組織側は13名が死亡とある。第一報では、目撃されたテロ組織構成員は15名だったはずなので、もう一息のように読める。人質は、おそらくカトリックの僧侶を含む4名。
http://www.rappler.com/nation/170869-hostages-rescued-marawi
さて、本題の戒厳令の中身についてだが、下のインクワイアラーの記事を読むに、戒厳令下では、当局は令状なしにあやしいと思った人を3日間逮捕した状態にすることができる、とのこと。ただ、Rapplerの方だと、平時でもそれは可能だ、と書いている。さらに、ガイドラインはまだ作成中とも書いてある。ようは、まだ決まっていない。
(英語記事)
https://newsinfo.inquirer.net/899173/martial-law-in-mindanao-what-we-know
http://www.rappler.com/nation/170813-martial-law-mindanao-police-military
現行の1987年憲法は戒厳令の期間を「60日」以内としている、と報じている。ただし、ドゥテルテ大統領は1年にすることもできる、と発言したと報道されている。うーん、それって解釈によって可能になったりするものなのだろうか。また、テロ対策を口実に、ミンダナオだけでなくフィリピン全土に拡大することを示唆した発言も行っている。
(英語記事)
http://edition.cnn.com/2017/05/23/asia/philippines-mindanao-clashes-martial-law/
http://www.bbc.com/news/world-asia-40024120
マルコス時代には結局14年間も戒厳令が続き、その間、政敵や反体制派など、かなりの数の人が弾圧されたという過去があるが、今回も結局長引いていく可能性はありそうだ。ドゥテルテ大統領はマルコスに共感しており、去年11月には、当のマルコスを国家英雄として埋葬し直したという経緯もある。また、副大統領に惜しくも負けてしまったマルコスの息子ボンボンは、ドゥテルテの応援を受けており、現在選挙結果の再集計のために動いている。
現在の流れで見ると、いざ再集計になれば何か「神がかり的な力」が働いてボンボンが当選する、というシナリオは非常に有力に思われるし、ドゥテルテ自身が高齢であることを考えると、彼が任期中に倒れることにでもなればボンボンが暫定の大統領として引き継ぐわけだから、マルコス時代に逆戻りという結果も想定される。
ただ、以前の時代と今で違うのはネットがあり、情報統制が困難であること。マルコス時代のようにクローニーに仕事を振り分ける、というやり方も派手にはできないだろうし、「前科」があるフィリピンには国際社会の目も厳しいだろうし、戒厳令が続いても以前と同じ轍は踏まないかもしれない。また、とにかく治安が最優先、という姿勢は外資にはけっこう魅力的でもある(特にミンダナオにおいては)。おそらくマルコス時代のように政敵はけっこうな数が消されることになるのだろうが、まさにドゥテルテらしいやり方であって、最初から想定内のような気がする。
井出 穣治
中央公論新社
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