フィリピノ語のしくみ

諸言語で出ているこのシリーズは、コンセプトが「読める文法入門」。暗記しなくても先に進んでいけるので、どんな言語なのかさっと知りたい人向けです。

「フィリピノ語のしくみ」下平 英輝 (2009)

フィリピノ語のしくみ
フィリピノ語のしくみ
posted with amazlet at 16.04.14
下平 英輝
白水社
売り上げランキング: 861,887

一応は読んでおいて、自分に勘違いがないかを確認しておきました。

個人的には、セブアノ語ほかのフィリピン諸言語とか、教材がないような言語についてこの種の本を出してほしいと思います。現状では、あまり利用できるリソースがない中で、ウィキペディアがあるのがせめてもの救いです。

(タガログ語)isulatとsulatinに違いはない

最近、フィリピンというかミンダナオの治安の話ばかりメモしてましたが、久々にタガログ語の言語学習について書いてみます。

まず、報告。数カ月前にyoutubeにアップしてみた自作のタガログ語入門第一回の再生件数がようやく2,000を越えました。

どんな人が見ているのか、日本人だということ以外あまり細かいことはわかりませんが、当初は男性の比率が80%以上だったものの、さっき見てみたら60%まで下がってました。タガログ語を勉強する人って、オジサマだけじゃないんですね。

さておき、標題の件。タガログ語の文法は、他のアジアの言語に比べて動詞が大変。活用もちょっと難しいですが、それより困るのは動詞のタイプ(=焦点またはフォーカス)を選ぶところ。1アクションにつき最低2つの動詞があって、たとえば「食べる」ひとつとっても、複数の動詞チョイスから選ばないと文が作れません。

動詞の語根(単語)だけ知っていても動詞が作れない、というのが初級のうちにフラストレーションの元になります。独学で勉強しようとして脱落していく人が増える原因もこれです。なんせ、フィリピン諸語以外の言語からの応用というのができない。

フィリピン諸語の中でもタガログ語に限って言えば、もうひとつ厄介な問題があります。たとえ動詞のフォーカス(焦点)の仕組みを理解しても、個々の動詞について何を選べばいいか、体系的な法則がないのです。たとえば、「食べる」の行為者焦点はもっぱらum動詞の”kumain”が使われて、mag動詞の”magkain”を耳にすることはまずありません。そして、どうしてum動詞を選ぶのかは説明できないんです。まぁ、これについては日本語の動詞にも同じような問題がありますが。

一方で、どっちでもいい場合もあります。行為者焦点動詞でいうと、

bumasa と magbasa 読む
sulat と magsulat 書く

とかです。いつだったか、「um動詞の方が一回切りのアクションで、mag動詞の方が繰り返している感じがする」と聞いたことがありますが、普通に話す分には微妙すぎて気にする必要はないでしょう。

そして「書く」という動詞に関しては、目的焦点のときも、どちらでもいいようです。

isulat, sulatin 書く

あえて言えば、原形(不定形)-inの形は名詞とまぎらわしくなるので避ける傾向があるようです。

アブサヤフからの人質救出が続く

今年に入って誘拐された人の数は先日、アブサヤフによる誘拐2016で触れた。

さて、週末にノルウェー人男性が解放された後、さらに2件続けてアブサヤフからの救出が続いている。

まず、ノルウェー人解放の翌日9/18にインドネシア人3人が解放された。おそらく身代金が払われたのだろう。
http://www.gmanetwork.com/news/story/581832/news/regions/abu-sayyaf-releases-3-indonesian-hostages-to-mnlf-military-spokesman

続いて、別に拉致されたフィリピン人2人が解放された。これについても身代金が払われたと思われる。
http://cnnphilippines.com/news/2016/09/19/abu-sayyaf-asg-frees-releases-two-kidnap-victims-taruc-gonzales-afp.html

3件目は、今度は身代金は払われておらず、表現も「救出」になっている。今週の月曜日に拉致されたばかりの経営者であるフィリピン人老婆が、国軍に追われ転戦するアブサヤフの動きについて行ける体力がないと判断され、道に捨てられた模様。幸い、無事である。
http://www.sunstar.com.ph/zamboanga/local-news/2016/09/22/troops-rescue-woman-trader-abducted-abu-sayyaf-498976

と、ノルウェー人も合わせるとこの1週間に3件7人も助かった。これをどう解釈すべきだろうか。

注目したいのは、今回デュテルテ大統領は、これら(最後の救出を除く)の解放の実現はMNLF(モロ国民解放戦線)リーダーのヌル・ミスアリに負っている、と彼の顔を立てた。それだけでなく、ちょうど3年前にミスアリ派が起こしたサンボアンガ危機(注:現在では”Zamboanga Siege”(サンボアンガ包囲作戦)の名称が定着した)について「若手はミスアリのコントロール外」としてミスアリを擁護してもいる(ミスアリとミンダナオ和平の経緯についてはこちらを参照)。サンボアンガ市民はじめ一般国民にとっては、サンボアンガ危機の首謀者はミスアリ派リーダーであるミスアリなんだから、彼が逮捕を免れているのも受け入れられないことである。そのミスアリの汚名挽回をはかるというのは、デュテルテの政治的な作戦だと私には映る。

まぁそれはともかく、アブサヤフによる拉致については、専門的に情報収集しない限り、ニュースを拾っているだけでは詳しい情報がそろわないところ、この3件については被害者のことや拉致された場所について報道があるのでまとめてみたい。

1) インドネシア人の船員。2カ月前に拉致された、場所はマレーシア東ボルネオ海岸のLahad Datu。
2) フィリピン人の電気通信会社従業員。1カ月前に拉致された、場所はスールー州のPatikul
3) 中華系フィリピン人の経営者(ハードウェアの店)。2日前に北サンボアンガ州のSirawaiという、西海岸沿いの小さな町

先のノルウェー人を除けば、皆サンボアンガ周辺である。

ホーチミン市の全小学校で宿題が禁止に

ベトナムは教育水準が異様に向上しているようで、たとえばOECDの15歳以下の学力を測ったPISAというテストでは、2012年(2016年現在で最新)にドイツと並みだった。

そんなベトナムの、ホーチミン市内では来年度から宿題が禁止されるという。
http://www.viet-jo.com/news/social/160914051410.html

もともと宿題の功罪には両論あって、学力への効果という面では「親や教師や自己満足に過ぎないんじゃないか?」という声が高まりつつある。数年前には、ビルゲイツからの投資を受けて大きく成長した教育オンライン・プラットフォーム「カーンアカデミー」のサルマンカーンも、著書「世界はひとつの教室」で無駄だといっている。生徒全員に一律に同じ宿題を課す、ということも問題。

「世界はひとつの教室」サルマン・カーン(2013)

世界はひとつの教室 「学び×テクノロジー」が起こすイノベーション
サルマン・カーン
ダイヤモンド社
売り上げランキング: 101,292

一方で、家庭での学習習慣を作るためには宿題があった方が良い、と考える親は今でも多いし、宿題がなかったら家では勉強なんかしない、という子供や学生も多いだろう。

今回のホーチミン市の社会実験で、実際にどんな効果が出るのか、楽しみだ。

ダバオ向かいのサマル島でおきた誘拐事件のアップデート3

6月に書いたダバオ向かいのサマル島でおきた誘拐事件のアップデート2では、誘拐されたカナダ人が二人とも斬首されたことをメモした。残るはノルウェー人男性1人になっていたが、今日のニュースで動きがあったと伝えられました。

http://www.rappler.com/nation/146514-abu-sayyaf-norwegian-hostage-release

上のニュースによれば、件のノルウェー人は昨夜、解放されたという。支払われたとされる身代金は3000万ペソ。日本円にして7000万といったところか。

これにてサマル島でおきた誘拐事件は幕を閉じたことになるが、アブサヤフが人質としてとっているのは他にも20何人いて、外国人の中にはマレーシア人、インドネシア人の他にはオランダ人のカメラマンもいる。ただ、これらはなかなかニュースにすら登場してこないので、消息をリアルタイムで知るのはちょっと難しい気がしている。

サンボアンガの言語グループ

実際に滞在してきて見えてきたこと。

ミンダナオ情勢というのは研究されてきていないわけではないが、特に日本語文献はあんまり深くない感じがする。ひとつにはもちろん治安の問題があるが、もうひとつには日本としてあまり興味がないのではと思う。これまで遺骨収集団は何度か来ているが、いわゆる「奥地」に入っていったのだろうか、よくわからない。治安を考慮して入っていないのではと思う。

さて、ミンダナオにはたくさんの部族がいて、現在は大きく分けるとクリスチャン、ムスリム、ルマド、そして中国人等。部族の分け方に宗教が出てくるのがあまりよろしくないと思うが、ざっくりとした把握には便利なのでこれに従う。というのも、血統という意味ではそもそもアラブ、中国人、スペイン人やらなんやらが混じっているのがフィリピン人なので。

クリスチャン → 多数派。もとをたどればビサヤ等からの移民が多い。他にはクリスチャンに改宗した先住部族、スペイン人、日本人等の混血等。
ムスリム → ムスリム式の政治機構を備えていた先住民族。タウスグ、マラナオ、マギンダナオなど10部族ぐらい。
ルマド → 先住民族でムスリムでなかったもの。バゴボなど、ダバオ周辺に10部族ぐらい。
中国人等 → 中国人は100年ぐらい前からの福建を中心とした移民。

海上漂流民バジャオ(サマ人)はおそらくルマドに分類されるのではと思う。ようは、その他。

さて、サンボアンガは17世紀にスペイン人によって要塞が建設される前からスペイン人が何度も来ていたが、いわゆるクレオールであるチャバカノ語が主要言語となったのは何時のころだが定かではない。ただ、少なくとも19世紀後半には主要言語になっていたらしい。

その後、セブアノ語勢力が流入し、チャバカノ語もセブアノ語からの影響が強まっていくが、近年の国語政策によって、現在ではセブアノ語の進出は止み、今度はタガログ語の影響が強まっていき、ゆっくりとフィリピノ語の方言化の道をたどり始めているように見える。

現在この町でむしろ目立つのはスールー諸島やバシランから来るムスリム移民(経済難民?)。観察していると、現在のサンボアンガは大きく3つの言語グループに分けられるようだ。

1)チャバカノ語 → 一、二世代以上前からサンボアンガに住んでいるクリスチャン、バジャオ等。
2)セブアノ語 → サンボアンガに比較的最近移民してきたクリスチャン
3)タウスグ語 → バシランとかからつい最近移民してきたムスリム

そして、それぞれの共通語はフィリピノ語というかタガログ語。若い人は、小学校しか出てなくて英語があまりできなくても、みんなタガログ語は普通に話せる。フィリピンの国語政策は大成功しているのを改めて感じる。

アブサヤフによる誘拐2016

9/11にマレーシア人が3人行方不明になったので(参照今年に入ってからの誘拐は、オランダ人のカメラマンとサマル島で誘拐されたノルウェー人を含む30人になった。

(追記:この3人は、マレーシアの永住権を得ていて乗っていた船もマレーシア籍だが、マレーシア国籍ではないとのこと。どこの国籍かは不明。)

http://www.gmanetwork.com/news/story/576683/news/regions/abu-sayyaf-kidnaps-3-in-sulu

外国人では、インドネシア人やマレーシア人が多い。

記事タイトルには「アブサヤフ」と書いているが、彼らは自分たちがやったと声明を出すことが多いものの、実際には別の小さいグループが拉致をして、それをアブサヤフに売るなり引き渡すなりしている模様。サマル島での誘拐事件も、その疑いがある。が、真相はわからない。