ミンダナオの戒厳令の年末までの延長が承認された件

本日7月22日、ミンダナオ全土に出されている戒厳令の年末までの延長がフィリピン上下院の合同特別会議にて賛成大多数(賛成261、反対18)で承認された。
今回は日本のメディアも取りあげている。

(参考記事)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM22H5A_S7A720C1EA3000/
http://www.asahi.com/articles/ASK7Q63QLK7QUHBI01Y.html

朝日新聞で、「民間人45人を含む578人が死亡。」と報道されている。昨日のrapplerの記事(参照)で読んだ限り、この中に100人の政府軍兵士も入っていて、一方テロリスト側の死者は425人。

上の日経の記事によれば、マラウィに残っているテロリスト側の勢力は70人程度となっている。

結局当初の目標であった戒厳令布告から60日以内にテロリスト(マウテグループとアブサヤフを中心とする連合)を当地から一掃することができず、かつミンダナオの他の地域ではNPA(共産ゲリラ)の動きも前より活発になっているようにさえ見える。おそらく、政府からの締め付けが強くなった分の反発にすぎないのだろうが、一般人からすると今まで事件のなかったところで事件が増えている、という印象ではなかろうか(そもそもマラウィ危機もあるいはしばらく前のボホール島の事件も、もし政府がバシランやスールーでの掃討作戦を強化していなかったら発生しなかったかもしれないが、「もし」の話はあまり意味がなさそうだ)。

ひとついいところは、最近はサンボアンガおよびスールー諸島の方では事件が起きていないようで、IS系過激派に関して言えば、マラウィに勢力が結集された分だけ周辺は静かになっていると言ってよさそうだ。

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ミンダナオの戒厳令が年末まで延長になりそう

もうすぐ憲法上に規定された最長の期間である60日を迎える戒厳令について、憲法が認める国会の承認のもとでの延長が実現しそうな見通しだ。
なお、本件について採決が行われるのは22日(土)とのこと。

(英語記事)
http://manilastandard.net/news/top-stories/242268/-161-days-more-for-martial-law-.html
http://newsinfo.inquirer.net/915409/senate-united-on-martial-law-extension-split-over-duration

上記記事によれば、延長の理由はマラウィを襲ったテログループであるISが今後またミンダナオで事件を起こしかねない、ということ。

うがった見方をすれば、戒厳令延長のためにわざと掃討作戦をダラダラと続けているのでは、という風に見えないこともないがどうだろう。

一方で、フィリピン各地にいる麻薬戦争の当事者やらドゥテルテの政敵からすれば、大統領が対テロ作戦にリソースをつぎ込んでいる限りは自分たちが当面狙われなくなるため、テロ組織を応援したいという思惑がありそう。

「ミンダナオ」という縛りがある限りにおいては、お互い戒厳令の延長にはとりあえずは賛成なのかもしれない。

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フィリピンを乗っ取った男

決して新しいストーリーではないのだが、一部とはいえ「戒厳令(martial law)」下の現在のフィリピンを理解する上で非常に良いと思った本。最近ようやく読んだのでここにメモしておく。マルコス政権でいわゆる「クローニー」として巨万の富を築き上げたダンディン・コファンコことエドゥアルド・コファンコ・ジュニア(Eduardo Cojuangco Jr.の物語。ちなみに、彼は現在もサンミゲルの会長であり、毎年フォーブス誌のアジアの富豪ランキングにも登場している。

そもそもマルコス時代になんで戒厳令になったのか、それを国民がどう受け入れ、そして戒厳令下で結局は何が起こったのか。今ミンダナオに敷かれている戒厳令とその意味を読み解く上でも非常に参考になった。

「フィリピンを乗っ取った男」 アール・パレーニョ(2005)

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一番のポイントは、ダンディン・コファンコがコラソン・アキノ(旧姓コファンコ)のいとこで、ノイノイ・アキノ前大統領のおじだということ。なので暗殺されたベニグノ・アキノと対立するはずのダンディン・コファンコは、結局は身内なのである。本書では、マルコス時代にタルラックでの地方選挙でダンディン・コファンコとベニグノ・アキノが交渉し、お互いに政治家としての地位を築いていった部分も描かれている。

そして、アキノ政権下で一時国外逃亡していたダンディン・コファンコはこっそり帰国し、差し押さえられていた持ち分を裁判で勝ち取りサンミゲルを再び手中に収める。マルコス時代のココナツ課徴金をめぐる裁判はずるずると引き延ばす作戦をとり、これはつい最近まで続いていた。
(英語記事)
http://newsinfo.inquirer.net/733742/sandiganbayan-thumbs-down-partial-judgement-on-coco-levy-case

こういった歴史を学んでいくと、フィリピンの政治がちょっとわかるようになってきて嬉しい。特に、なぜボンボン・マルコスの人気があるのかというのは、外国人にはちょっと理解できないことだから。

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マラウィ危機(マウテグループによる占拠事件)死者数のアップデート

5月から続いているマラウィでのISIS(ここでは、マウテグループ、アブサヤフ、さらにBIFFやアンサルカリファ・フィリピンの連合とされる)との戦闘についてのアップデート。

ネットメディアのRapplerによると6月30日時点で、死者数は
政府側(国軍と国家警察).. 82人
テロリストに殺された民間人.. 39人
テロリスト.. 317人
という。これまでに政府やNGOが1713人救出したが、まだ全面解決にはいたっていない。

(英語記事)
http://www.rappler.com/nation/174358-death-toll-marawi-clashes-june-30

ちなみに5月に敷かれたミンダナオ全域の戒厳令は、60日以内という制限つきなので7月22日頃までには解かれないといけないのだが、果たして現政権はルール通りに行うのか、その点も少し気になるところではある。

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マラウィ危機、マウテグループとの戦闘の死者は103名以上

先週から始まった南ラナオ州マラウィ市での戦闘(マラウィ危機(Marawi crisis)はテロというよりは内戦のようになっており、既に20万人いるマラウィ市民の大半は国内避難民として他地域に退避しているとされる。市内では、ISに忠誠を誓うマウテグループ&アブサヤフが当局を相手に戦闘を繰り広げており、いまだに収まる気配はない。5月29日現在で、報道では双方の死者が103名以上と伝えており、内訳は民間人19名、国軍兵士11名、国家警察官4名、テロリスト側61名を含む、とある。残りの8名は両者の衝突以外での死亡で、渓谷で死体が見つかったと書かれている。8名の死体に関するビデオは下のインクワイアラーのウェブサイトに載っている。

(英語記事)
http://edition.cnn.com/2017/05/28/asia/isis-threat-southeast-asia/
https://newsinfo.inquirer.net/900380/marawi-death-toll-now-at-97-army
https://www.nst.com.my/world/2017/05/243714/more-100-people-killed-marawi-week-long-clash

そして、戒厳令下のミンダナオでは令状なしの逮捕が実際に起きた。国内避難民にまぎれてマウテグループの構成員とみられる人物が侵入したためで、当局はこの者を令状なしに逮捕した。

(英語記事)
http://www.rappler.com/nation/171085-warrantless-arrests-military-checkpoints-mindanao

テロリスト側は殺した人の生首を置いたり、死体の隣りに「裏切者」と書いたメモを残したり、ISだったりメキシコのマフィアのやるようなことも行っている。これも写真がネットに落ちているが、このブログでは敢えて紹介しない。

なお、当局は今回の掃討作戦は2,3週間中に終わると見積もっている、と報道されている。逆に言えばそれぐらいは少なくともかかるということで、私も今後もウォッチしていきたい。

最後に、今回の戦闘に関しては英語のウィキペディアでも随時、時系列でのまとめが更新中だ。
https://en.wikipedia.org/wiki/Marawi_crisis

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ミンダナオ島全域に戒厳令:マルコス時代と違う点

今回のニュースはさすがに大きい扱いで、日本のメディアでもとりあげられている。昨夜5月24日にミンダナオ全域に戒厳令(マーシャルロー)が宣言された件だ。

(記事)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM24H2Q_U7A520C1EAF000/
http://www.news24.jp/articles/2017/05/24/10362341.html
https://www.cnn.co.jp/world/35101640.html

直接の引き金になったのは、本ブログでも昨日「フィリピン・ミンダナオ島マラウィ市でマウテグループと当局が交戦中」に書いた通り、テロ組織と当局が市街で衝突したことだ(ISISに忠誠を誓うフィリピンのテロ組織「マウテグループ」についてはこちらを参照)。伏線としては、これも本ブログで少し前に「ボホールに侵入したサブサヤフの最後の一人も殺害完了」 等で書いてきたが、4月にセブから近い観光地であるボホール島にテロ組織アブサヤフの構成員が侵入した件、さらに今年から当局がまた別のテロ組織”BIFF”に対してミンダナオ島南ラナオ州で展開している作戦で、爆撃を行っていることなどなどがある(参照:「ミンダナオではBIFFと国軍との戦闘によって2万4千人以上が避難している件」)。

ちなみに今回の掃討作戦の方は、収束したというニュースは今のところない。最新のレポートでは、国軍兵士が5名死亡、テロ組織側は13名が死亡とある。第一報では、目撃されたテロ組織構成員は15名だったはずなので、もう一息のように読める。人質は、おそらくカトリックの僧侶を含む4名。
http://www.rappler.com/nation/170869-hostages-rescued-marawi

さて、本題の戒厳令の中身についてだが、下のインクワイアラーの記事を読むに、戒厳令下では、当局は令状なしにあやしいと思った人を3日間逮捕した状態にすることができる、とのこと。ただ、Rapplerの方だと、平時でもそれは可能だ、と書いている。さらに、ガイドラインはまだ作成中とも書いてある。ようは、まだ決まっていない。
(英語記事)
https://newsinfo.inquirer.net/899173/martial-law-in-mindanao-what-we-know
http://www.rappler.com/nation/170813-martial-law-mindanao-police-military

現行の1987年憲法は戒厳令の期間を「60日」以内としている、と報じている。ただし、ドゥテルテ大統領は1年にすることもできる、と発言したと報道されている。うーん、それって解釈によって可能になったりするものなのだろうか。また、テロ対策を口実に、ミンダナオだけでなくフィリピン全土に拡大することを示唆した発言も行っている。

(英語記事)
http://edition.cnn.com/2017/05/23/asia/philippines-mindanao-clashes-martial-law/
http://www.bbc.com/news/world-asia-40024120

マルコス時代には結局14年間も戒厳令が続き、その間、政敵や反体制派など、かなりの数の人が弾圧されたという過去があるが、今回も結局長引いていく可能性はありそうだ。ドゥテルテ大統領はマルコスに共感しており、去年11月には、当のマルコスを国家英雄として埋葬し直したという経緯もある。また、副大統領に惜しくも負けてしまったマルコスの息子ボンボンは、ドゥテルテの応援を受けており、現在選挙結果の再集計のために動いている。

現在の流れで見ると、いざ再集計になれば何か「神がかり的な力」が働いてボンボンが当選する、というシナリオは非常に有力に思われるし、ドゥテルテ自身が高齢であることを考えると、彼が任期中に倒れることにでもなればボンボンが暫定の大統領として引き継ぐわけだから、マルコス時代に逆戻りという結果も想定される。

ただ、以前の時代と今で違うのはネットがあり、情報統制が困難であること。マルコス時代のようにクローニーに仕事を振り分ける、というやり方も派手にはできないだろうし、「前科」があるフィリピンには国際社会の目も厳しいだろうし、戒厳令が続いても以前と同じ轍は踏まないかもしれない。また、とにかく治安が最優先、という姿勢は外資にはけっこう魅力的でもある(特にミンダナオにおいては)。おそらくマルコス時代のように政敵はけっこうな数が消されることになるのだろうが、まさにドゥテルテらしいやり方であって、最初から想定内のような気がする。

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