フィリピン初の自爆テロ

このところ忙しくてこのブログもあまり更新できていないし、ニュースも見られてない。今回、日本大使館からの注意喚起メッセージをもらってようやくバシランでのテロについて知った次第。自称サンボアンガ・ウォッチャーとしては、このブログ上で記録漏れがあるのは嫌なので以下に載せておきたい。

事件があったのは7月31日、バシラン州の北西部にあるラミタン市を出たチェックポイント。車の運転手による自爆テロと見られており、民兵、一般人合わせて11人(運転手含む)が亡くなり、他に9名が負傷した。爆弾はIED(自家製爆弾)と見られている。

フィリピンではこれまで自爆テロはなかったので、アブサヤフが新しい戦法を試しているのでは、という見方もある。

(英語記事↓)
http://newsinfo.inquirer.net/1016464/suicide-bombing-eyed-in-basilan-attack
https://www.rappler.com/nation/208594-basilan-blast-abu-sayyaf-furuji-indama-terror-even-in-hiding

フィリピン―急成長する若き「大国」 (中公新書)
井出 穣治
中央公論新社
売り上げランキング: 855
『大学のフィリピノ語』
山下美知子 リース・カセル 高野邦夫
東京外国語大学出版会
売り上げランキング: 54,254
広告

2013年のサンボアンガ危機の犯人一味のうち、97人が釈放された

MNLFの2013年のサンボアンガ危機の犯人一味197のうち、97人が5月28日に釈放された。基本的にバシランとスールー出身の男たちで、女性は1人のみとのこと。最終的に、彼らには一人5000ペソの罰金が科されただけにとどまった。

残る一味のメンバーは100人で、もっと罪の重い中核メンバーと思われるが、それにしてもこの97人に対する罰の軽さは被害者を落胆させていることは間違いない。そもそも、MNLFのリーダーであるヌル・ミスアリは部下の一部が「暴走」したのに勾留すらされておらず、もちろん責任もとっていないのが流石フィリピンというか、外からは理解しづらい部分だと思う。

(参考英語記事↓)
http://news.abs-cbn.com/news/05/28/18/court-frees-97-mnlf-members-in-zamboanga-siege
https://www.philstar.com/nation/2018/05/28/1819430/zamboanga-city-guard-96-charged-over-siege-freed

フィリピン―急成長する若き「大国」 (中公新書)
井出 穣治
中央公論新社
売り上げランキング: 855
『大学のフィリピノ語』
山下美知子 リース・カセル 高野邦夫
東京外国語大学出版会
売り上げランキング: 54,254

テルナテ島で話されていた言語はテルナテ語だったという当たり前の話

チャバカノ語のルーツをたどる研究メモ。

日本人でチャバカノ語を研究している人が歴史的にほぼ皆無な中で、鶴見良行は昭和の時期にサンボアンガやコタバト等を旅していて興味深い記述を残している。彼は著作がたくさんあるので、少しずつ読んでいくことにする。今回読んだのは、この本。

「辺境学ノート」鶴見良行(1986)めこん

辺境学ノート
辺境学ノート

posted with amazlet at 18.01.08
鶴見 良行
めこん
売り上げランキング: 1,045,216

P193-194に、ハルマヘラ(Halmahera)マルク州北部の島。テルナテ島は、この属島。
ウォーレスを含めて、当時の書物は、ハルマヘラをGiloloと記しているが、これはトベロ族の村名で、ジャイロロと発音する。かねてよりの疑問氷解。トベロ語は、マラヨ=インドネシア語系とはまったく異なるという。

との記述あり。「テルナテ」はカビテ州にある町の名前でもあるのだが、もともとはこのインドネシアのテルナテ島の王族がポルトガル人によって追い出され、カビテに住み着いたのが由来とされている。テルナテには「テルナテーニョ」というチャバカノ語が残っており(ただし絶滅しかかっているが)、サンボアンガのチャバカノ語と意思疎通できるぐらい類似しているため、元は共通の言語だったと推定されており、マニラやカビテからサンボアンガに伝わったのだろうと考えられている。

俺のかねてよりの疑問は、追い出されたテルナテの王族の母語は何だったのだろう、ということだったのだが、テルナテ島がハルマヘラ島の属島という情報を上記著作から得たことで自分で言語状況を検索してみる気になった。

英語版ウィキペディアを見ると、たしかにテルナテ語(テルナタ語)というのがあって、ティドーレ(tidore)語、トベロ語等と同様にマラヨ語系とは系統が違う西パプア系とある。ということは、やはりテルナテ語はタガログ語とは全然似ていないことになる。

もう少し調べてみるに、オランダの学者Van Der Veenは北ハルマヘラ諸語(North Halmaheran)について、非オーストロネシア(=NAN)諸語の中でも、異民族との接触のためかテルナテに近づく程SOVからSVOに変る傾向が顕著と述べている。語順が変わっていくという話は、それはそれで面白い(たとえばフィリピン諸語と現代マレー語は同じアウストロネシア語族なのに語順が違う)。

最後に、テルナテ島のビデオがyoutubeで観られるのを見つけたのでそれを紹介して終わりにしたい。テルナテ島は大航海時代には地理的にとても重要だった場所なので、観光資源はやはり遺跡。下は、テルナテ王宮を紹介したビデオ↓

また、テルナテ島には北マルク・ムハマディア大学という大学があるそうで、そこには日本語学習者もいるんだとか。用事はないが、親近感がわいたので、いつか行ってみたい。
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/201210/article_4.html

アブサヤフがバシラン州の村を襲撃

去る8月21日になるが、アブサヤフの一団がスールー諸島の手前にあるバシラン州(サンボアンガの向かいにある島)の村で行われる祭りを狙って襲撃を行い、村人9人が死亡、10人が負傷した。下のリンク先の英語記事にはビデオもついている。

(英語記事)
http://www.rappler.com/nation/179451-basilan-abu-sayyaf-attack-civilians-dead

同記事によれば、この襲撃はアブサヤフの他の戦線から軍の注意をそらすための作戦とみられる、とのこと。

そんな理由で襲撃を受ける方はたまったものではない。近年、バシランやスールー諸島からサンボアンガをはじめとする他州への移民が進んでいるのは、このような治安の悪化が背景にあるのは間違いない。ちなみにサンボアンガはものすごい勢いで人口が増えており、既に人口は100万人を超えているとみられる(この人口は、ミンダナオではダバオに次いで二位)。それだけでなく、サンボアンガ市民のムスリム比率が急激に増えているのも注目される。

このことが市内で使われる言語にも影響が大きな影響を与えているのは言うまでもなく、おそらく特にタウスグ語話者が増えているのだろうが、バシランやスールー諸島の人々は他にもヤカンやバジャウなどいろいろな民族がある。多言語ウォッチャーの私としては、サンボアンガ市内(特にダウンタウン)の小学校などがどうなっているのかも非常に気になる。

フィリピン―急成長する若き「大国」 (中公新書)
井出 穣治
中央公論新社
売り上げランキング: 855
フィリピンパブ嬢の社会学 (新潮新書)
中島 弘象
新潮社
売り上げランキング: 603

アブサヤフに拉致されたベトナム人一名が脱出に成功

ここのところドゥテルテ政権によるテロ対策が派手すぎてニュースもなかなか追いきれないのだが、今日は久々にアブサヤフ拉致問題についてのアップデート記事を取り上げたい。

6月16日に、アブサヤフの拠点のひとつであるバシラン島に捕らわれていたベトナム人船員のうち一名が脱出に成功し、国軍に保護された。拉致されたのは2016年11月なので、実に7カ月もの間人質としてつかまっていたことになる。

(英文記事)
http://cnnphilippines.com/regional/2017/06/17/ASG-Vietnamese-hostage-recovered.html

上のCNNの記事では、他に26名の人質がいるとされ、21名はスールー、5名はバシランで、バシランに残されているこの5名はベトナム人の同僚。もっと詳しく言うと、バシランにいるグループはアブサヤフ傘下の”Furudji Indama(フルジ・インダマ)”という名前だそう。

別のニュースによれば、6月17日には爆弾製造担当のメンバーがサンボアンガ市内で逮捕されている(といっても、サンボアンガはフィリピン国内でダバオの次に市域が広大で、現場は町はずれだが)。このメンバーは、インドネシアの過激派テロ組織「ジェマ・イスラミヤ」から爆弾製造の訓練を受けたのだという。

(英語記事)
http://cnnphilippines.com/regional/2017/06/17/aide-aby-sayyaf-leader-isnilon-hapilon-arrest-zamboanga-city.html
http://news.abs-cbn.com/news/06/17/17/close-aide-of-hapilon-arrested-in-zamboanga-city

ここからは私見だが、報道を見ていると、国軍による空爆を含む攻勢によりアブサヤフはかなり弱体化しているように見える。

フィリピン―急成長する若き「大国」 (中公新書)
井出 穣治
中央公論新社
売り上げランキング: 855
フィリピンパブ嬢の社会学 (新潮新書)
中島 弘象
新潮社
売り上げランキング: 603

ミンダナオでの爆破事件で300人が亡くなった(2001~2013年)

先週あたりからもう”ISIS”と呼ばれるようになったマウテグループ&アブサヤフによる南ラナオ州マラウィ市占拠事件(マラウィ危機)は3週間経ってもまだ収束していないが、そろそろ時間の問題といえるような状況になってきたそう。ただし一般人が捕らわれたままで餓死した人もできる模様ではある。

さて、今回は特に新しいニュースもないので、ミンダナオでのこれまでのテロについて振り返ってみる。直近で一番の被害者を出したのは2013年のMNLFミスアリ派による「サンボアンガ危機」でたしか民間人が200人近く亡くなったのではと思う。それ以外では同時期に起きた「ママサパノ」での警官44人が亡くなった事件が記憶に新しいが、ただしこれはテロではなく政治家が黒幕だった。

さて、爆破事件に関しては最新ではないものの、2001~2013年のミンダナオでの被害をまとめた英語記事がある。記事中の表を日本語にすると、

地域          事件数      死者数      負傷者
ソクサージェン    25 125 585
ARMM   15 81 349
サンボザンガ半島 10 48 336
ダバオ地方 6 52 315
北ミンダナオ 5 48 190

となる。地域名に私なりの若干の解説をすると、ジェネラルサントス(ジェンサン)等があるのがソクサージェン、ARMMは南ラナオ州などのイスラム自治区、サンボアンガ半島はサンボアンガ市に南北サンボアンガ州も加えたもの、ダバオ地方というのはダバオ市に南北ダバオ州を加えたもの、そして北ミンダナオはアグサンやスリガオ(サーフィンで有名)等があるところだと思われる。

この間、一番狙われていたのはジェネラルサントスだったのだが、実はダバオ市も空港で2002年に大きな爆発があり、さらに数か月後にも空港に隣接する「ササ」というエリアで爆発が起き計38名が亡くなっている。そんなわけで、去年のダバオ市でのテロは初めてということではない。

(英語記事)
http://www.rappler.com/nation/35493-mindanao-bombs-300-killed-12-years

最後に、以上を見るとサンボアンガは他と比べて目立って多いわけではないことがわかるが、これはあくまで爆発事件の話。サンボアンガ周辺では悪質な拉致の事件が後を絶たず、現在でも外国人を含む約30人が人質になっているとされる(本ブログ「アブサヤフが8歳の人質フィリピン人少年を解放」などを参照。

脱出老人: フィリピン移住に最後の人生を賭ける日本人たち
水谷 竹秀
小学館
売り上げランキング: 89,963
日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」 (集英社文庫)
水谷 竹秀
集英社 (2013-11-20)
売り上げランキング: 40,252

ボホールに侵入したサブサヤフの最後の一人も殺害完了

ちょっと遅れたアップデートになるが、去る5月15日に私が本ブログで「ボホールに侵入したアブサヤフ構成員が新たに一名殺害された件」を書いた後、実はボホールでは残った1名も殺害され、一掃が完了した。

(英語記事)
http://www.rappler.com/nation/169923-abu-sayyaf-terrorist-killed-bohol

場所はボホールのパンガンガン島。これで本事案は解決ということで、しばらくしたらボホール訪問を控えていた外国の観光客もまた戻ってくるようになるのでは、と思う。

ところでアブサヤフの拠点に関しては、5月17日付で政府から今年1月以降の作戦の成果が発表された。それによれば、この間に149名が無力化された、とのこと。内訳は、81名が死亡、50名が投降、18名が逮捕。ちなみにこれは主にスールーの拠点でのこと。下のビジネスワールドの記事によれば、政府が見積もった1月時点でのアブサヤフ構成員は500名程度とのことなので、作戦の成果は相当大きいと見える。

(英語記事)
http://cnnphilippines.com/news/2017/05/18/AFP-149-Abu-Sayyaf-neutralized.html
http://www.bworldonline.com/content.php?section=Nation&title=abu-sayyaf-toll-81-killed-18-apprehended-50-surrendered&id=145459

フィリピン―急成長する若き「大国」 (中公新書)
井出 穣治
中央公論新社
売り上げランキング: 855
フィリピンパブ嬢の社会学 (新潮新書)
中島 弘象
新潮社
売り上げランキング: 603