タガログ語とインドネシア語の文法比較(1)

タガログ語(フィリピン語)とインドネシア語が似ている、というのは知られたことであるけれども、文法上のどこが具体的に似ているのか、というのを日本語で検索してもヒットしない。そこで、自分で書いてみることにする。ただし、現状私はインドネシア語を数年独学した程度で、話せるレベルではないというのは言い添えて置く。

今回は動詞で似ている点について。

1) 焦点
タガログ語の動詞には焦点(あるいはトリガーとも呼ばれる)のシステムのために動詞に独特の難しさがあるが、インドネシア語もうっすらとそれらしい特徴があるように思える。

1-1) 行為者焦点
当然ながらぴったりは対応いないが、おおざっぱに言えば、
タガログ語  インドネシア語
mag-動詞 meng- / meN- 動詞
-um-動詞    ber-動詞

で、あと使役は
タガログ語  インドネシア語
magpa-動詞 mengper-動詞

と把握しておけば便利そうである。

1-2) それ以外の焦点
タガログ語で目的(あるいは対象とも呼ばれる)焦点動詞、方向焦点動詞、手段焦点動詞etc.は、どうやらインドネシア語では接尾辞に-kan, -an, -iをとる動詞がそれに似ている。
タガログ語               インドネシア語
i動詞、in動詞、an動詞、pag- -an動詞etc.  -kan, meN- -kan, -an, -i

あと、受け身の表現はタガログ語ではin動詞の一部で行為者を言わないのが普通な語が一部にある程度ではっきりしないが、インドネシア語は前置詞diが動詞の接頭辞として機能するよう。よって、

タガログ語  インドネシア語
-in動詞    di-動詞   

2) モード
タガログ語の状況モードは、かなりの程度インドネシア語の接頭辞terとニュアンスが似ているように思われる(特に、非自発的行為に使うもの)。よって、
タガログ語   インドネシア語
maka- / makapag-動詞 ter-動詞
ma- / ma- -an動詞     ter- -kan動詞

3) 名詞化
正しくは語根の名詞化なんだろうが、動詞の項に含めておく。
「~する人」を指すのに、タガログ語ではmag- / mang-動詞の未然相(ようするに未来形)を使うが、インドネシア語では接頭辞pe-を使う。

タガログ語   インドネシア語
mag- / mang-動詞の未然相   pe-  

以上、今回のメモはこんな感じで。(今後、適宜訂正していく可能性あり)

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世界の裁判見て歩こう

タイトルにあるように外国語学習の本には違いないのだが、ノウハウは書いていないちょっと珍しいタイプの本。

「世界の裁判見て歩こう わたし流外国語上達法」山中信彦(2018)

世界の裁判見て歩こう わたし流外国語上達法 (幻冬舎ルネッサンス新書)
山中 信彦
幻冬舎 (2018-03-15)
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正直、書籍にするほどの内容ではないと思うが、それにしても書かれている情報は珍しい。アメリカ、イギリスをはじめフランスやドイツ、ロシアなどの裁判所でいろんな国の裁判を傍聴し、あるいは傍聴しようとした、という記録。著者はどうもモテない男性であることを前面に出して書きたかったようで、女性の読者にはキモイと思われるような内容もあるのではと個人的には思う。

現在世界で支配的な法律やら裁判所のシステムというのは西洋のものが土台になっているので、世界中で理解不能なほど違うということはおそらくなく、基本的な部分が同じであればその国の言葉がそこまでわからなくても登場人物の役割やおおまかな流れ自体は類推できるところが多く、言語に通じていなくても理解の助けになるよう。

さらに、本物の裁判所は通常テレビには出てこないので、現地に行ってしか見れない、という旅行の醍醐味もある(ただし、国によっては、ほんの一部ネットで見れたりもする)。いろいろな国で傍聴していれば、裁判のやり方はもちろん、傍聴に来る人たちの雰囲気の違いも比べられて面白いだろうと思う。

まずは日本でいろいろと傍聴して学習したあとに、海外に行って傍聴するのがよいと思う。少なくとも中級以上でないと聞き取りも、職員とのやり取りも難しいだろうから、かなり自信がつくようになってからようやく挑戦できる趣味だと思った。俺もいつかやってみたい。

忘れられた日本人

「忘れられた日本人」宮本常一(1955)

忘れられた日本人 (岩波文庫)
宮本 常一
岩波書店
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鶴見良行や高野秀行の本を読んでいたら出てきたので読んでみた。古い本だからどうせ読みにくいんだろうと思って期待していなかったら、出だしからすごい。

明治を生きていた人たちなんて、宮本が執筆した時点で「忘れられた日本人」だったわけなので、現在からすればほとんど中世の人々と大差ないほどの心理的距離感。それを現代的な視点で観察し記録してくれたことに、一読者としては感謝しかない。

また、夜這いや村の女性のエロ話についての記述は昔読んだ赤松啓介の記述とも一致しているように見え、やっぱり本当だったんだなぁ、と思ったりしました。昔の日本人のノリというか性格というか、雰囲気は現代日本に生きる我々には想像しづらいのだけど、高野秀行も言っているとおり途上国に行ってそこで生きている、本なんか読まないようないろんな人々たちと交流していればイメージを得る助けにはなると思います。

宮本常一の他の本もぜひ読みたい。

使える語学力

多言語学習の本のレビュー。

最近、日本人でも若いポリグロット(多言語話者)が外国語学習または多言語学習ガイドを書くようになっていて、動画など同時代的な学習方法も紹介しながら誰でも(理論上は)できる学習法が簡単に手に入るようになった。

「使える語学力 -7ヵ国語をモノにした実践法」橋本陽介(2015)

方法論の紹介もさることながら、最近のガイドは筆者を不必要に高い位置に置かずに、自らの限界を認め読者の手の届くところにいるように感じさせるような記述があるのが特徴と思う。例えば、「モノにする」というのはネイティブレベルになることとは全く違う、とか、実際に「モノにした」筆者も、久しぶりに話す言語では勘が戻るまでに一定程度の時間がかかる、とか。

また、『「できない」と言っている人は絶対量が全然足りてない』というような、同時代の同朋に対する厳しい指摘が見られる点など、昔の偉い方々ならわざわざ書かないような記述もあったりする。

この本の著者の橋本は文学が専門の大学の先生ということで、学者の書いた真面目な本ではあるわけだが、同時に彼は高校で中国語等を教える教師でもあったわけで、進学校の大学受験に相当に近い距離にあった自身の体験を踏まえて日本の受験のどこが外国語習得にとって害をもたらしているのか、を主張している点などアドボカシーの要素も入れているのも非常にユニークで面白い。

さて、彼の外国語学習ガイドでは『「使える外国語」にするための3つの大原則』が紹介されていて、それぞれ
1 「音声」を覚える。
2 その言葉が使われている「状況」(いつ、どこで、どのように)を覚える。
3 「能動的学習」を追加する。

である。3などは、日本人にしか必要ないのではないかというような項目である。それほど、現状(平均的に)日本人の学習スタイルは受け身なんだろうなぁ。

これはようするに、日本の学校教育の中での外国語教授の反対をやればいい、ということ。となれば、結局は日本なんかにいないで海外に行ってストリートで修業してくるのが一番、という結論になるし、実際に筆者もそうやってコツを身に着けたと書いてある。なので、読者もそうすればよい。

もちろん日本でもできることはいっぱいあるだろうけれども、もし是が非でも日本にいなければいけないような人なら、どのみち外国語なんて学習しても使うチャンスはないんじゃないかと思う。だから、思いきって一人で行ってきて、自分なりに反省してどんどん能動的に自分のやり方を積み上げていけばよい。

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タガログ語の”hugot”とは

タガログ語の日本語解説はあまりなく、かつ若者言葉となると大学の先生方が書くような解説には世代的に載っていない。
“hugot”もそのひとつ。もともと”hugot”には、um動詞”humugot”で「引く、引き抜く」という意味があったが、メディアの影響によって新しい意味が定着したようだ。

定義としては、だいたい「メッセージ性があり、ひねりの効いた一文」という感じだと個人的には理解しているが、例えばitaki.com(言語学習ウェブサイト)の質問コーナーの2015年の回答(参照)や、hinative(言語学習者の質問にネイティブが回答するウェブサイト。日記添削サイト”lang-8.com”の後継)の2017年の回答(参照)には歌詞だったり「(格言・名言としての)引用」も含む、とある。そんな感じ。

初出はどうやらコメディアンのバイス・ガンダ(日本でいえば往年の明石家さんま的なトーク力のあるタレント)のようだが、もともとはライバルであるGMA(民放)の番組でやっていたようだ。その頃は”pick-up line(s)”と呼ばれていたものが”hugot line(s)”となり、今に至ると思われる。

ちなみに、現大統領のドゥテルテが当選した大統領選にも出馬していた、故ミリアム・サンティアゴ上院議員はこの名手であり、本も出している。

Stupid Is Forever
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Miriam Defensor Santiago

例として、2013年のバレンタインデーにマニラのフィリピン大学で行ったスピーチの動画が以下↓

その後、”hugot”と呼ばれるようになり俺がダバオにいた2015年には既に流行っていた。ということで、流行りだしたのは2013から2014年頃だろう。

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スールーの首都ホロの教会で爆破テロ

今朝、ミンダナオ島の南西、マレーシアとの国境に近いスールー州の州都ホロにあるカトリック教会でミサの最中に2つの爆弾がさく裂し、多数が死亡・負傷した。本日夕方までに確認された死者数は20名、負傷者も81名にのぼっている。なお、中には国軍兵士も含まれている。(追記:1月30日時点では、死者21名、負傷者111名)

(参考:英語記事↓)
http://cnnphilippines.com/news/2019/01/27/jolo-town-cathedral-explosion.html
https://newsinfo.inquirer.net/1078076/jolo-sulu-blast-bombing-death-toll-injured-news
https://www.telegraph.co.uk/news/2019/01/27/twin-blasts-church-philippines-kills-19-injures-48/

この事件はおそらくというかまず間違いなく、先日成立したばかりのバンサモロ基本法(BOL=Bansamoro Organic Law)に反対する者の仕業。スールー州はMNLFの拠点であり、MNLFが今回のバンサモロ基本法の成立過程に参加していないだけに反対の立場。今月の住民投票でも、ほとんどの自治体が賛成する中でスールー州(とバシラン州の首都のイサベラ市)だけは反対多数という結果が出た。

今回のテロ事件は、賛成票を投じたとみられるグループに対する反対派からの報復ではないか、という見方もある。先の投票でも、かなりの数の有権者が本当は賛成票を入れたかったけれども脅されてあるいは恐怖にかられて反対票を投じたのではないだろうか。

国レベルではこの程度のテロ事件は想定内ということだと思うが、渦中の住民としてはたまったものではない。2022年にバンサモロ自治政府が発足すればますますMNLFの立場は弱くなっていくのだろうが、これからもまだまだ反対派のテロはなくならないのではないかと思う。そうなると、サンボアンガ市を始めとする比較的治安の保たれている地方中心都市に(イスラム教徒も含めて)島民が流入していく構造はやはりこれからも変わらないだろう。サンボアンガ市はすごい勢いで人口が増えており、しかもイスラム教徒の比率が上がっている。これに伴って言語のバランスも当然変わってくるので、サンボアンガのチャバカノ語を細々と研究し続けている自分としては今後も目が離せない。

アメリカに喧嘩を売る国 フィリピン大統領ロドリゴ・ドゥテルテの政治手腕
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日本/フィリピン歴史対話の試み: グローバル化時代のなかで
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「スペイン語の世界」の中のチャバカノ語

日本語の文献でチャバカノ語への言及を見ることは非常に少なく、特に学者が書くものはほぼないといってよい。長崎県立大学の荻原寛名誉教授は研究対象にチャバカノ語も含めているようだが、ネットで見られる論考はイスパニカに掲載されている「マニラ湾沿岸部のスペイン語系クレオールをめぐって」(1995)ぐらいしかない。

そんな状況の中、今年出版されたスペイン語関係の一般書を読んでいたらチャバカノ語について紹介されているページがあったので引用してみる。

「スペイン語の世界」岡本信照(2018)慶応義塾大学出版会

スペイン語の世界
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91-92p

フィリピンのチャバカーノ(スペイン語xタガログ語/セブアノ語)
 東南アジアにもスペイン語が存在する。その地はフィリピンである。チャバカーノ(Chabacano)とは、スペイン語とフィリピン現地語のいくつかとの接触言語の名称である。チャバカーノ語話者が最も多いのはミンダナオ島のサンボアンガという都市で、約50万人のネイティブ話者がいると推定される。農村部へ行けば、チャバカーノのモノリンガルも存在するという。ただし、最近は衰退の一途にあり、ミンダナオ島にも標準フィリピン語(タガログ語)が普及しつつある。その他、ルソン島マニラ湾沿岸の都市カビテでも話されているが、サンボアンガの変種とは異なる。例えば、語彙構成に関して言えば、カビテ方言はスペイン語起源のものが93%を超えるのに対し、サンボアンガ方言は86%とやや少なくなる。つまり、タガログ語やセブアノ語といった現地語由来の語彙の割合は、サンボアンガ方言の方がやや高い。
 ”chabacano”という語は本来「下品な」を意味するマイナス・イメージを帯びた形容詞である。それゆえ、その由来においてはあまり名誉ある名称とは言えないが、フィリピンにおけるクレオール・スペイン語の言語名として今や市民権を得ている。
 このクレオール語がいつどこで発生したかについては諸説がある。1つは、17世紀に香料諸島のテルナテ島(現インドネシア領)で発生したという説だ。ここは、香辛料の商取引をめぐってスペイン、ポルトガル、オランダが争った場所である。16~17世紀の東アジア海域では通商の共通語としてポルトガル語とマレー語が用いられており、やがてこの2言語が混淆したピジンが産み出され、ポルトガル人のみならず、オランダ人や英国人も用いたという。このポルトガル語基盤のピジンがさらにスペイン語と接触した結果がチャバカーノの萌芽であり、17世紀半ばにテルナテ島に住んでいたスペイン語(=チャバカーノ)話者がマニラに移り住むようになってからフィリピンで広めたというのだ。この説の支持者は、サンボアンガ方言を後の18世紀になってから派生した変種と位置づける。つまり、チャバカーノ諸方言一元論を唱えているわけである。2つ目は、18世紀のミンダナオ島に起源を求める説である。1718年、スペインは一度放棄したことがあるサンボアンガをふたたび占領した。この時期、この土地の先住民は不完全ながらもスペイン語を話すようになり、これがチャバカーノの始まりだという。こちらの説に賛同する専門家は、ミンダナオ島の方言とルソン島の方言はそれぞれ別の過程を経て確立したとする多元論で説明しようとする。

岡本が自分で調査して93%やら86%といった具体的な数字を挙げているとは思えないので、誰かの研究成果の孫引きなのではないかと思う。本書は2018年の作だが、上で言及したイスパニカ掲載の荻原の論考と比べてみて、その起源の探求について特に進んだ点は感じられない。

気になるのは、「最近は衰退の一途にあり」というくだり。一直線に衰退しているような書き方だが、カビテやテルナテの変種はともかく、サンボアンガのチャバカノ語についていえば話者数が数十万おり、当地の小学校の母語言語としてカリキュラムにも入っているところからすると、乱暴な言い方だと思われる。フィリピン語(タガログ語)は普及しており、もはやチャバカノ語モノリンガルの人は若い人にはいないが、サンボアンガでは、今後国から禁止されでもしない限り容易には話者は減っていかないと思う。

(おまけ)
参考までに、アキノ政権下で導入された、現行の「母語を基礎とした多言語教育(MTB-MLE)」の資料(英語)をいくつかリンクしておく。

https://www.philstar.com/headlines/2013/07/13/964902/deped-using-seven-more-dialects-under-k-12