フィリピンの教育改革についてのまとめ(2015年7月)

ここ数年注目しているフィリピンの教育改革。JICAプロジェクトでも専門家チームが入ってなんやらやっているようですが、結局のところ当のフィリピン政府も含めて誰もこれからどうなるかがわかっていない、という状況のようです。さすがフィリピン。

とりあえずここまでの道筋だけでもきちんとフォローしよう、ということでネット上で日本語だけでささっと調べた結果こうなりました。

1. フィリピンの教育史
まず、改革までのフィリピンの教育史をみてみましょう。東大の先生の論文ですが、出た年が書いてない。参考文献を見ている限り、本論文は1978年頃のものかと思われる。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kyoiku1932/46/3/46_3_216/_pdf

それから時代は下り、現在のフィリピンの教育行政。

日本の外務省のレポート。2005年頃?統計的なデータあり。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hyouka/kunibetu/gai/philippines/pdfs/sect05_01_03.pdf

ポイントと思われるのは、
「三焦点化(trifocalization)」の方針により、基礎教育を教育省、高等教育を高等教育委員会、職業技術訓練を技術教育技能開発庁がそれぞれ所管している。
現地名はそれぞれ、デッペドDepartment of Education (DepPED), チェドCommission on Higher Education (CHED), テスダTechnical Education and Skills Development Authority (TESDA)です。

2. 教育改革の概要
福井大学のレポートでは、
http://repo.flib.u-fukui.ac.jp/dspace/bitstream/10098/7746/1/AA12470517-06-022.pdf

改革の法的根拠「拡大・強化された(Enhanced)2013年基礎教育法」
改革内容:
1) 教育・学習言語の変更とカリキュラム改革とからなる教育方法の転換
2) これまで小・中学校の10年間であった義務教育の期間を高等学校までを含めた12年間に延長するということ

とある。1) については、いつも揺れている英語か母語かの論争がまたぶり返しているという印象。この点、日本の詰め込み教育vsゆとり教育に似ている気がする。
で、西洋(EUとかUNESCOとか)などで支持されている「母語をベースとした多言語による教育・学習(MTB-MLE、Mother Tongue Based Multi Lingual Education)」が導入されることになったという次第。この「母語」というのはしかし8大言語プラスFSL(フィリピン手話)だけではなかったか。たくさんある諸少数言語をフォローし尽くすというのは土台無理な話なので、線引きがあるのは経済的に仕方ないと思われる。

次に、カリキュラム改革は、内容は見ていないがおそらく「成果基準の教育法(Output based teaching)」への転換と思う。他に、マグサイサイ賞受賞のベルニド夫妻のメソッドにも影響を受けているとどこかで読んだような気もするが、実際はどうなんでしょうか。

そして2)、K-12(K to twelve)と言われている制度改革。言うまでもなくこれが一番影響が大きい。

3. 教育改革の背景
で、そもそもどうして教育改革が必要だったのかを調べてみると、

2011年6月時点のアジ研のレポートに従来の教育制度の問題点が3つあげられている。
http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Overseas_report/pdf/1106_suzuki.pdf

それぞれ、

基礎学力の低下
就業の問題
海外との制度の違いがもたらす不利益ともいうべきか、扱いの差

だという。管見では、それに加えて2015年末にAEC(東南アジア経済共同体)が発効予定なのもあると思う。ここ数年で、いろいろな基準をASEAN各国でそろえている。

アジ研のレポートに戻ると、この教育改革を実施するにあたり問題になりうることがあげられている。誰もが素朴に思うことだ。すなわち、


「中等教育を2年間上積みすれば、それだけ必要となる教室・教師・教科書が増えるからだ。それに、学校に通学しつづける子供達の学力は向上するかもしれないが、そうでない子供達にとっては何も変わらず、学力の格差がさらに広がる可能性も考えられる。」

これまで拡張できなかった理由もこれなんだから、誰でも気づいているはず。今の質を維持するだけでも、2年分の教育予算を増やさないといけないし、そもそも新制度開始にあたっての初期投資としてカリキュラム作り、教師研修のほかに教室の設置が必要になる。だいたいこういう改革の被害者になるのは地方の低所得階層なわけで、特にミンダナオのARMM(イスラム自治区)らへんにテコ入れしないとどうしようもなくなるのは目に見えている。

4. 監督官庁の乗り入れ
2年間拡張した分の課程は「シニアハイ」と呼ばれるようだが、このカリキュラムには普通科だけでなく、職業訓練的な内容を持った各種の実学科(TEC-VOCトラック)が予定されている。しかし初等・中等教育を所管する教育省にはノウハウがないので、職業訓練の監督機関であるTESDAが乗り入れてくるので、「三焦点化」が崩れる格好になる。

http://www.uitec.jeed.or.jp/images/journal/042-05.pdf

さらにいうと、私学ではシニアハイは大学が降りてくるような形で拡張するようなので、大学の先生がとりあえず2年間はシニアハイの学生を教える、ということにもなりえる。その場合、教員免許はどうなるのか。

そもそも、シニアハイの教員免許は誰が持っているのだろう。中等教育の免許と同じだろうが、追加の研修とかしなくていいのだろうか。疑問はたくさんあるが、少なくとも日本語では、現時点でこれらの答えになるような文書は出てなさそうだ。

以上、2015年7月時点でのまとめでした。

(おまけ)
ところで今回の教育改革には含まれていないが、興味深い視点がある。むしろミンダナオ和平プロセスに関連するものとして、イスラムのマドゥラサ教育への視点も持っておきたい。
www2.jiia.or.jp/pdf/asia_centre/h13_isram/tatsumi.pdf

(おまけ2)フィリピン政府による新制度説明のプレゼン(だいたい英語)。

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