人びとのアジア―民際学の視座から

月並みですが読んだ本の感想、というか読みながら思ったことをつらつらと。

「人びとのアジア―民際学の視座から」(1994)中村 尚司 、岩波新書

人びとのアジア―民際学の視座から (岩波新書)
中村 尚司
岩波書店
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一般的に、昔の本って昔の雰囲気というか当時の思想を反映しまくっているので、今読むと今ならではの読み取り方ができると思う。一方で、本によっては時代を越えて新鮮なままであり続ける箇所を持っていたりもして、考えさせられる。

今回の本でいうと、当時の時代を偲びながら読んだ箇所には、まず繰り返し主張される会社人間からの解放、がある。今から振り返ってみると、こういう論調はおそらく2005,6年ぐらいまで続いていたと思う。この時期に何か大きな変化があったような気がするが、思い出せない。

次に、アジアへの注目という本書の主題がある。思うに一般人がアジアの良い面を注目がいきだしたのは、21世紀に入ったぐらいからじゃないだろうか。もしくはアジア通貨危機の後。たとえば冬のソナタだったり、中国進出だったり、ベトナム株への投資だったり、アジアにまつわるブームというのが増えてきたのがこの時期だと思う。それ以前の日本人のアジアへの眼差しは、決定的に違うと思うんです。それこそ、本書で言われるように思想的に「脱亜入欧」の延長線上にあったと思います。今とは時代が違うなぁ、と読みながらつくづく感じた。

で、アジア通貨危機以前のアジア研究みたいな分野って、経済的にメインストリームでなかったわけなので研究者もいわゆる「一流」の人たちではない。なんというか「変わった」人たちだったんだと思う。そんな中で、たとえば鶴見良行だとか、田中宏、それから本書の著者である中村尚司なんかは、気概のある人たちだなぁという印象を受けます。こういう人間味がある研究者って、最近はいるんだろうか。こういう人たちは、やっぱり時代が生んだのかなぁ。

戦後からバブルまでを生きていた日本人にとって、ベトナム戦争はとてつもなく大きなイベントだったのだと思う。アジア太平洋資料センターについて俺はよく知らないが、そもそもこのセンターの名前がイヴァン・イリイチの主催した「国際資料センター」と似ているのだが、やはりオルタナティブを探求する彼らは大きな影響を受けていたのだろうか。現在ではイリイチは思想的に半ば忘れ去られたような存在になっているように思われるところから比べると、やはり時代の差を感じる。

それでもこのアジア太平洋資料センターに関わった学者たちのユニークな業績を見ると、日本の知のセンターのひとつであったことに間違いないと思う。俺自身は同センターの雑誌「オルタ」を読んだことは実は数回しか無いのだが、上野千鶴子の論考を読んでいる限りは知的に刺激的だという印象を受けた。一方で、オルタナティブ主張を読んでいると、正直疲れる、というのも感想として持った。当時の読者もそんな感じだったんだろうか。

本書を読んでいると、京都の龍谷大を中心にしたネットワークのようなものが感じられる。学者たちが人道的な活動を繰り広げているのを読むと、なんかいいなぁと思う。私は特に大学の先生に人間味を求めるタチだからかもしれない。それともうひとつ、京都のNGO事情についても考える。以前、前の会社の社長から「神戸震災はNGO元年と言われたが、それは関東人その他の立場からであって、京都人に言わせればNGO精神は昔からあった」というような話を聞いたことがあったのだが、たしかに本書の雰囲気はそうだ。京都の市民活動の歴史にも興味が湧く。

本書には「タカラブネ労組」が一瞬だけ登場する。これもまた興味深い。タカラブネ労組は、NGO設立を支援したりもしていたようで、少なくともフィリピンの某NGOはその流れだと聞いている。労組は今でこそ話題にもならないが、NGOが台頭する土台として日本では重要な役割を持っていた。この角度から日本NGO史をまとめた本なんかあれば読んでみたい。

本書で展開されている内容は、なんだかとりとめもないエッセイの集合のような印象を与えつつも、全体からなんとなく中村の言わんとする雰囲気が伝わってくるような気もして、消化しきれない。受け止める側の俺の知的レベルが足りないからなのか、出版当時と時代が違うからなのか、よくわからない。しばらくしてもう一回読んだらもっとわかるのかもしれない、と思った。

以上、思いついたことを列記してみました。

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