ケアの社会学

次の仕事を始めるにあたって障害学を勉強したい、と思ったのだが、なかなかそれらしい文献に出会えずにいる。

今のところ一番勉強になったのは手話関連の本だった。あと、開発コンサルの人にユニバーサルデザインについて話を聞いたり、工夫の事例を案内してもらったりしたこともよかった。一見にしかず、というか、やはり物語モードで学ぶことの大事さ。

その後、今度は角度を変えて、やっぱり多文化教育の方向からノーマライゼーションを考えた方がいいよなあと思って、日本の「差別」について勉強をした。赤松啓介の「差別の民俗学」、それからその赤松批判も読みたいと思ったので礫川全次の「異端の民俗学」を読んで、民俗学的、人類学的に明治、大正頃の日本の風景について思いを馳せた。

そして最後に、やっぱり社会学が一番しっくりくるなあと思いながら手にとったのが上野千鶴子の新刊。

「ケアの社会学 ―当事者主権の福祉社会へ」上野千鶴子(2011)太田出版

ケアの社会学――当事者主権の福祉社会へ
上野 千鶴子
太田出版
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は、高齢者介護に的を絞った研究なのだが、途上国では高齢者介護は社会問題になっていないとはいえ、障がい者福祉との関連を考える上で参考になることを発見した。前半の概念批判では、上野のいつもながら鋭い切り込みに、デキる人間の理論攻めはサディスティックな爽快感をもたらすなあ、と改めて思った。さすが東大名誉教授。

俺の普段の思いを代弁してもらった、と思ったのは、年金制度のうちの「専業主婦優遇政策」。すなわち、専業主婦は年金を自分で払わないのに、受け取るときにはちゃっかりもらうというのは、結果的に保険料を他の加入者に負担させている「タダ乗り」ではないか、と常々思っていた。今回、上の著作を読んで、その制度自体が回りまわって夫の給与を払う企業を優遇する結果を意図したという事実を知った。さらに、その制度が86年に始まったのは、専業&兼業主婦を温存するためだったこともわかった。すなわち、主婦を夫の扶養に留めるには例の103万円の境界ができ、主婦が正規雇用でなくパートを選択するインセンティブとした。

それはともかく、障害学を学ぶ代わりに本書を読んでよかった、と思ったところは、やはり「家族が介護するのが最善か?」という問いかけに出会ったことだった。上野流だな、と思う。それはちょうど以前、育児は母親にしかできないか?という問いを論破していったときの再現のようだった。

読みながら、障がい者のケアにしてもアウトソーシングすることができるはずで、特に途上国において障がい者を家庭に閉じ込めないようにする方策、というよりはそういったことを通じて社会参加できるような環境づくりが必要そうだな、と思った。それは介護保険が介護を家庭から社会に引っ張りだしたようなものなんじゃないだろうか。なんてことを考えながら読み進めていった。

ところで、上野は同著の中で、再三「当事者主権」あるいは利用者が何を求めているかは利用者に聞け、というような言い方で「声」が誰のものかを問題にしている。社会学者だな、と思う。ケアされる側の視点、さらに進めてケアされる作法・技法があまりにも研究されてきていないという。

そして自著からの引用で、「介護される側の心得10ヶ条」を掲載しているのだが、これは介護に限らず、まるっきり対人コミュニケーション術じゃないか、と思った。おもしろいのでここに引用したい。

(1) 自分のココロとカラダの感覚に忠実かつ敏感になる
(2) 自分にできることと、できないことの境界をわきまえる
(3) 不必要なガマンや遠慮はしない
(4) なにがキモチよくて、なにがキモチ悪いかをはっきりことばで伝える
(5) 相手が受けいれやすい言い方を選ぶ
(6) 喜びを表現し、相手をほめる
(7) なれなれしいことばづかいや、子ども扱いを拒否する
(8) 介護してくれる相手に、過剰な期待や依存をしない
(9) 報酬は正規の料金で決済し、チップやモノをあげない
(10) ユーモアと感謝を忘れない

以上は、俺だって日常生活の中で大なり小なり気をつけていることだ。現代日本人の課題、ですかね。

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