サンダカン八番娼館

「サンダカン八番娼館」 (2008)山崎朋子、文春文庫

サンダカン八番娼館 (文春文庫)
山崎 朋子
文藝春秋
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本書は、大宅壮一ノンフィクション賞をとった1972年の「サンダカン八番娼館」の文庫版なのだが、1974年の続編「サンダカンの墓」も後半に収められていて、続けて読むのにちょうどいい。2004年に映画化されたからか、2008年にこのセットの文庫版がリニューアル出版されたわけだが、内容的にはかなり70年代。同じ日本とは思えないような描写がそこかしこにあり、さらに70年代らしい文体とも相まって、独特の味を出している。

本書はようするに、かつての「からゆきさん」に戦後になってから聞き取りをした記録なのだが、ノンフィクションってこんなに自由でいいのか、というぐらい前面に筆者が出てきている。超主観的で、かつ聞き取りすら再構成しまくっているのだけれど、情報が貴重なだけに耳を傾けずにはいられない。

俺の世代にとっては、今やすっかり有名になった「従軍慰安婦」とは違い、日本人の「からゆきさん」のことは全然情報がない。出稼ぎ、ということで言えば、JICA移住資料館のようなところにはアメリカに出稼ぎに行った人の情報はそれなりにあるのだが、アジアはというと、いったいどこに集めてあるんだろうか、となり、ましてや当時の売春婦の情報となると、これはもはや国営の資料館のようなところにも右翼系のところにも期待できない。なんせ消したい過去なのだから。そしてもちろん送り出し元の郷土資料館にも記録はほぼないだろう。

そんなわけで、本書の情報は信ぴょう性の担保が弱いとはいえ、上にも書いたように貴重だと思う。この種の聞き書きというのは、情報を持っている人が続々と世を去っているので(というか、現在ではもはや皆無だろう)、検証しようがない。だから、内容に創作があってもわからないという問題を抱えざるを得ないわけで、一般書として出す以外には難しいんだろうな、と思う。

しかしながら、内容的にはさもありなん、というような雰囲気がかなりする。聞き書きに登場する「からゆきさん」たちは、今の言葉で言うならば人身売買のサバイバー。貧しい時代の日本では国内外で似たような人生がいっぱいあったんだろうな、と想像してしまう。

ところで、本書によれば最大の送り出し元となっていた九州の、島原・天草は実はうちの片方の親の実家のある島のすぐ近く。先祖はどうやら貧農だったようなので、おそらく、うちの先祖をたどれば何人かは出稼ぎに行っていて、かつそのうちの何人かは「からゆきさん」だったのだろうなぁ、などと妄想した。もちろん、そんな記録は島中を探したって見つからないだろうけど。

地理的なこともあり、かつ大学院のときに自分自身でもオーラル・ヒストリーに挑戦したということもあり、いろんなことが非常に身近に感じられる本でした。読んで損はないと思います。

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